ポータルクロニクル Season 2 第13話「虚ろ舟・後編」

――予約した宿に到着するや否や、セシリアは教授から渡された「虚ろ舟伝承」の資料を広げた。
江戸期の文献特有の言い回しや、土地固有の伝承が複雑に絡み合い、読み解くにはさすがのセシリアも骨が折れた。
「やはり地元の専門家に聴くのが一番よね」

翌朝、セシリア一行は、水戸市の地元史料館へ向かった。

受付で大学の身分証を提示し、来訪目的を告げると、職員は快く応じてくれ、案内役を買って出てくれた。

「虚ろ舟の話は江戸時代の文献に残っているんです。『兎園小説』や『水戸文書』『日立文書』には、舟に乗った異国の女性が、神栖市の舎利浜という所に漂着したと記されています」

展示室には巨大な虚ろ舟模型、漂着した女性の姿や虚ろ舟を描いた図版、挿絵、当時の記録が整然と並んでいる。彼女はひとつひとつを丁寧に読み込み、ノートに書き写した。

From “Hyoryu-ki-shu (Archives of Castaways)” – Nippon.com

虚舟。『漂流記集』(作者不詳)から。流れ着いたのは常陸国の原舎ヶ浜はらしゃがはま。乗っていたのは18~20歳ぐらいの若く身なりのよい美女で、顔色は青白く、眉毛や髪は赤い。言葉は通じず、どこの国の人かは不明。白木の箱を大切そうに抱え、人を寄せ付けようとしない。船の中には謎の文字があったと書かれている。

「この伝承は地元でも長く語り継がれてきました。養蚕の女神・金色姫伝説とも関連づけられることがあります」
「舟の形は丸くて、窓のようなものが描かれているんですよ。妖怪の“舟幽霊”伝承にも似ているし、異界から来た存在と考える人もいます」

職員の話に、セシリアの胸の奥では微かなざわめきが走った。
確かに、図版に描かれた“窓”のような黒い円が、ただの意匠ではなく、何かの“機能”を持つ構造物のように見える。
円盤の外側に刻まれたラインは、“舟”には不釣り合いなほど均一で、まるで外殻パネルの継ぎ目のようだった。

教授から渡された資料ではいまいち掴めなかった“何か”を静かに結びつけていく。
――これは、意図して作られた“乗り物”だ。
そんな確信めいた感覚が、胸の奥で形作られた。

「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
「お話を伺い、大変興味深いです。
 舟の形状は円盤に近い。窓のような描写は、異星人の乗り物を思わせます。漂着した女性が抱えていた白木の箱の中身は何かしら?蚕から作られた、高価な絹糸でしょうか?そういった養蚕信仰とのつながりといった地域文化の側面もあるのかもしれませんね。しかし率直に言って、地球外知的生命体の可能性もあるのではないでしょうか」
「虚ろ舟伝承とは、古代のUFO遭遇記録と考えられるのではないかしら」

セシリアはさらに話題を広げた。
「浦島太郎の亀も、故障して漂着したUFOと、その搭乗者を助けた物語なのでは?浦島太郎は海底のUFO基地に訪問したという解釈も可能です」

職員は驚きながらもセシリアの仮説を否定せず、耳を傾けてくれた。
「昔話と宇宙伝承を結びつける視点は斬新ですね。一方で、地域文化とのつながりも考察されるとは、さすが研究者ならではですね」
「いかがでしょう、お時間があれば、虚ろ舟が漂着したという、神栖市の舎利浜まで足を伸ばしてみては?ここからですと、車で2時間弱かかりますが」

「ええ、ぜひ!」
「もしかしたら、虚ろ舟は、私たちの世界と宇宙とを繋ぐ鍵かもしれませんね」
セシリア一行は微笑みながら丁重に礼を述べ、舎利浜へ向かった。

虚ろ舟が漂着したと伝わる浜辺は、冬の光に照らされ、静かに波が寄せては返していた。

「ここが……」
セシリアは砂浜に立ち、海風を受けながら深く息を吸った。

イリスが歩み寄り、静かに口を開いた。
「虚ろ舟の女性は、帰る場所を失った者だったのかもしれないわね」

「ロナみたいに別次元やパラレルワールドから来たってこと?」

「ええ。世界の境界に迷い込んだ存在もいると思うわ」

カミーユも合いの手を入れる。
「聞いたことがあるわ。一部は創作でしょうけど、パラレルに行ったとか、タイムスリップしたとか、異界駅に行ったとか」

冬の光に照らされた浜辺は静かだった。
ただ、波の音がどこか遠く、少しだけ遅れて届くように感じられた。

セシリアたちはまだ知らない。“境界の向こう側”は、まだ静かに息を潜めているだけだということを。

『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、研究者として日本でのフィールドワークを開始。虚ろ舟伝承の真実に迫る。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。常にセシリアに寄り添う良き理解者。虚ろ舟の女性の正体について考察する。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の紹介で、セシリアの旅を支える運転手となる。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。


【朗読】ポータルクロニクル公式

使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:栗田まろん(史料館学芸員)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
VOICEVOX:後鬼(カミーユ)

エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂


Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第13話編集後記をお届けします

今回のお話は、2023年3月19日(日)まで常陽史料館で開催されていた企画展「不思議ワールド うつろ舟」を参考にさせていただきました。


ご興味のある方は、虚ろ舟伝説ゆかりの地である神栖市歴史民俗資料館にも足を運んでみてはいかがでしょうか。
【PDF】舎利浜とうつろ舟特集(全36ページ)

また近年では、海底にUFO基地が存在するという説も語られており、そうした視点から眺めると、虚ろ舟や浦島太郎伝説も辻褄が合うのではないかと考え、今回のお話に取り入れました。

虚ろ舟の女性については、地球外知的生命体ではないかという説が一般的ですが、私は、別次元やパラレルワールドからこちらの世界へ迷い込んでしまった存在ではないかという可能性を考えました。

これにて「ポータルクロニクル Season 2」は最終回となります。お楽しみいただけましたでしょうか。
次回よりいよいよSeason 3が始まります。セシリアたちを待ち受ける新たな物語を、どうぞ楽しみにお待ちください。