かぐやは壁に刻まれた星々の紋様に触れた。
その瞬間、外の風景が映し出された。いわばマジックミラーのようになっているのだろうか。
かぐやが言うにはそこは月の裏側だという。月の裏側には荒涼とした大地が広がり、かつての文明の痕跡――巨大な建造物の残骸が、紫の光を帯びてなお脈動しており、宇宙服を着た者たちが、何やら作業をしているようであった。
セシリアは思わず声を上げる。
「……まるで建造物自体が呼吸をしている生き物のようだわ」
「その通り。この建造物は……私が生まれるよりずっと前、ある巨大企業の中枢でした。
度重なる戦争で荒廃したけれど、まだ一部は生きています。
この呼吸は、残されたエネルギーが宇宙と共鳴している証なのです」
「セシリアさん、これをあなたに託します」
かぐやはそう言うと、胸元の内側からT字型の金属片がペンダントヘッドとなっているネックレスを取り出し、セシリアに渡した。
「これは?あの建造物でつくられた?」
「そう。
かつて“宇宙世紀”と呼ばれた時代がありました。
これはその時代に造られた、“サイコフレーム”と呼ばれるものです。
精神感応システムの機能そのものを組み込んだ金属です。
度重なる戦乱を越えても、この技術は脈々と我々に受け継がれてきました」
セシリアは息を呑み、その金属片から発せられる緑色の光に目を奪われる。
「そのような大切なものを私に…」
「いいの。私の分はあとからいくらでもつくれますから」
「サイコフレームの能力を最大限使えば、この世界ごと消し去ることもできます。
しかしあなたなら、善なる方向へと使えるでしょう。
そしてあなたを守ってくれる盾となり、異世界への扉を開けてくれる鍵となります」
「あなたの内にある小宇宙と共鳴し、未来を切り拓くために」
イリスが口を開く。
「セシリア、わかっているでしょうけど、何らかの力を授かったのなら、それをどう使うかよ」
セシリアは決意に満ちた目で深く頷き、掌に残る温もりを確かめつつ、サイコフレームを首にかけた。
その瞬間、サイコフレームは微かに脈動し、セシリアの胸の鼓動と重なった。
神殿の静謐な空気が震え、まるで宇宙そのものが彼女の選択を見守っているかのようだった。
かぐやは一行を見渡し、告げた。
「皆さんそろそろ、元の時間軸に戻ったほうがいいかもしれませんね。
最初にお会いしたとき、私にとっては“異界の人たち”ばかりで、本当に驚きました。
でも……こうしてお話しできて、すごく嬉しかった。私は孤独ですから……
またいつでも遊びにいらしてください。どこにいても、サイコフレームがちゃんとここまで導いてくれますから」
かぐやの言葉に導かれるように、神殿の回廊の紫の光が明滅し出し、一行はそれに沿って進んだ。
次の瞬間、視界が揺らぎ、気がつけば夜の出雲大社の本殿に立っていた。あれほど壮大な体験が、まるで夢の一幕だったかのように、静かな現実がそこに広がっていた。
だが、セシリアの胸の奥では、いまだ共鳴が続いていた。
サイコフレームは彼女の意思に応じ、微かに光を返している。
――これは夢ではない。宇宙の真理に触れた証だ。
そして胸の奥で、かぐやの微笑みが静かに灯り続けていた。
『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、研究者として日本でのフィールドワークを開始。月の統治者“かぐや”からサイコフレームを託される。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
かぐや
月を統べる存在。日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドであり、20代前半の日本人女性を思わせる姿をしている。セシリアの人柄と探究心を見込み、サイコフレームを託す。
イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアらと古代出雲大社から月に空間転移し、統治者“かぐや”との邂逅を果たす。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。
【朗読】ポータルクロニクル公式
使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:ナースロボ_タイプT(かぐや)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂
Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第8話編集後記をお届けします
月といえばアナハイム・エレクトロニクス。サイコフレームは極めて有用な技術であり、宇宙世紀から何百年を経ても、その技術は脈々と受け継がれていったのではないか──そんな考察から、今回の物語に組み込みました。個人的にも、いつかサイコフレームを登場させたいという思いがあり、アニメとは異なる使い方を提示できないかと試みました。
また、かぐやは“純粋な人間”でも“純粋な地球外知的生命体”でもない、いわば中間に位置する存在として描きました。その曖昧なアイデンティティゆえに、彼女は深い孤独を抱えています。同じく幼少期に孤独や生きづらさを経験したセシリアとは、言葉を超えた共鳴が生まれ、サイコフレームを託すという描写には、二人の間に芽生えた静かな友情の証を込めました。

