ポータルクロニクル Season 2 第7話「月が見えた!・前編」

姿を現した古代出雲大社の高床式階段。
その両脇のスロープに沿って、電球のような灯りが一つ、また一つと順に灯っていく。

灯りの低い唸りが空気を震わせ、肌に冷たい圧がかかる。
誰もいないはずの闇の中で、確かに「何か」が息づいていた。

光の列は本殿へと誘うように続いていた。

やがて、本殿の奥から紫の閃光が奔り、空気を震わせる。
その時――

「ポータルの中へ」

若い女性の声が、空間そのものから響いた。

「誰? 私たちのこと?」

「ポータルの中へ」

声は繰り返され、抗いがたい力を帯びていた。
セシリアたちは意を決し、紫の光のスパークの中へと身を投じた。

次の瞬間、彼らの眼前に広がったのは――月の裏側。
星々の光が届かぬ静寂の大地に、荘厳な神殿が聳えていた。

そこに現れたのは、一人の女性。
その姿は近未来的な装束を纏いながらも、顔立ちは――セシリアが大学で見かけた日本人留学生に酷似していた。思わず口をついて出る。

「あなた、誰?日本人?」

「私は月を統べる者。
 日本人と地球外知的生命体とのハイブリッド。  
 あなた方の世界では“かぐや”あるいは“かぐや姫”と呼ばれてきた存在です」

セシリアは思わず息を呑む。
「……日本に伝わる『竹取物語』は、あなたのことを?」

かぐやは頷き、静かに断言する。
「そう。ですがあれは真実を矮小化し、物語にすり替えたにすぎません。
 いにしえの昔、月の住人が日本に降り立ち、人々を連れ去りました。
 交配実験を繰り返し、その血脈の果てに、私が生まれたのです。
 “かぐや姫”の物語は、その出来事を畏れた地上の人々が作り変えた虚像にすぎません」

セシリアは動揺しつつ、矢継ぎ早に質問する。
「というか、ここはどこなの?
 私たちは出雲大社の本殿の中に入っただけなのに」 

「古代出雲大社の本殿は、時空のポータルが開く聖域。  
 そこは地球外知的生命体と交信し、他の星、別次元の世界へと跳躍するための部屋なのです」

紫の光に満ちた神殿の回廊を、かぐやは静かに歩み出す。
足音は響かず、ただ空間そのものが呼吸しているかのような静けさが漂っていた。

「……本殿の中にあったのは鏡だけでしょ?
 ただの鏡が、なぜ?」

かぐやは振り返り、淡々と告げる。

「それは、ただの鏡ではありません。
 鏡は星を映すもの。
 鏡を祀るとは、星を祀ること。
 星を祀るとは、宇宙を祀ること。
 そして宇宙を祀るとは、あなた自身という小宇宙を祀ることに他ならない」

一行は息を呑む。かぐやはさらに歩を進め、壁に刻まれた星々の紋様を指し示した。

「星は生まれ、やがて死ぬ。
 死した星の残骸は酸素や炭素、窒素となり、長い時を経て再び集まり、地球を形づくった。
 あなたたちの肉体もまた、その星のかけらから成り立っているのです」

セシリアは言葉を失い、イリスは無言で壁の光を見つめる。 かぐやは淡々と続ける。

「人は星のかけらであり、星の記憶を宿す存在。
 だからこそ、人は小宇宙なのです。
 大宇宙が一つの生命であるように、あなたたち一人ひとりもまた一つの生命。
 生命即宇宙、宇宙即生命――その真理を悟った者こそ、新たな感応を得る者。それが、“ニュータイプ”なのです。
 時空を超えた非言語的なコミュニケーション能力や、超人的な感覚力・直感力・観察力・洞察力を持つ存在をニュータイプだと思う人もいるかもしれません。でも、それはニュータイプの一面を切り取って見ているだけ。実際は、そんな浅い次元の話ではないんです」

かぐやの言葉は神殿の静謐な空気に溶け込み、まるで、宇宙そのものが語っているかのように響いた。

『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援

登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、研究者として日本でのフィールドワークを開始。古代出雲大社から月に空間転移し、統治者“かぐや”との邂逅を果たす。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

かぐや
月を統べる存在。日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドであり、20代前半の日本人女性を思わせる姿をしている。自らの出自、古代出雲大社と月との関わり、そして“ニュータイプ”の核心をセシリアに語る。


【朗読】ポータルクロニクル公式

使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:ナースロボ_タイプT(かぐや)

エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂


Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第7話編集後記をお届けします

かぐや姫の出自については、日本人が地球外知的生命体にアブダクションされ、交配実験の末に生まれた者の末裔──という私なりの解釈を加えました。日本人のDNAを色濃く受け継いでいるため外見は日本人に酷似している、という設定にすることで、彼女を「単なる月の住人」ではなく、『竹取物語』の新たな読み替えとして位置づけています。

また、古代出雲大社の本殿を“時空のポータルが開く場所”とする考察も、今回の物語に組み込みました。神話と歴史の狭間に潜む可能性を、物語的装置として活かした形です。

さらに、かぐやの「鏡は星を映すもの──」という言葉には神道思想を、「人は星のかけらであり、星の記憶を宿す存在──」という言葉には仏教思想をそれぞれ重ねています。『ポータルクロニクル』は、宗派や思想の違いを超えて“ひとつの哲学”を紡ぎ出そうとする試みでもあり、今回のエピソードはその中核となる思想を最も濃く示した、実質的なハイライトとなりました。