ポータルクロニクル Season 2 第9話「月はいつもそこにある」

セシリアたちは、あの不思議な体験の余韻を胸に抱えたまま宿へ戻った。
高揚と現実感のなさが入り混じり、誰もがどこか夢の中を歩いているようだった。
翌朝はチェックアウトのため、感慨に浸る間もなく、日本フィールドワークの続きについてミーティングを開くことになった。

セシリアが口を開く。
「このあとは、教授が講義で言っていた東北地方の“座敷わらしが出る宿”に行ってみたいわ」

カミーユがノートPCを開き、マップを表示した。
「もちろん異論はないけど……みんな、これを見て。出雲大社からその宿まで、約1,400kmよ。イリスの母船にピックアップしてもらえば一瞬だけど、ここに呼んだら自衛隊どころか米軍まで出てくるわ。東北にも、富士の樹海みたいに母船を隠せる場所はないし」

イリスが肩をすくめる。
「そうね。地球は私の先祖の星だもの。無用な衝突は避けたいわ。ここはカミーユに頑張って運転してもらうしかないわね」

「了解よ」
カミーユは地図を拡大しながら続けた。
「途中で神戸・須磨あたりに一泊するのが現実的ね。阪神高速にも中国道にも乗りやすいし。夜には近くの天満宮で大祭(※)があるらしいわ。屋台も出るって。デシュちゃんが好きそうな食べ物がいっぱいありそうよ。最近はペット同伴可の宿も多いし、心配いらないわ」

「よろしく頼む。そこに行けば噂に聞いた連邦の新型モビルスーツに出会えるのだな?」
「ちょっと何言ってるかわからない」

全員が吹き出した。
笑いが収まると、疲れがどっと押し寄せたのか、皆は早々に眠りについた。
セシリアの枕元に置かれたサイコフレームは、彼女の寝息に合わせて淡い緑光を明滅させていたが、やがて静かに光を閉じた。

――翌日の夕刻。
一行は大祭の屋台へと足を運んだ。
赤や橙の提灯が風に揺れ、香ばしい匂いが漂い、子どもたちの笑い声が境内に弾む。
異国の祭りの熱気に包まれ、セシリアは目を輝かせた。

「素敵……!こんなに活気のあるフェスティバルは初めてだわ」

その横で、デシュがぴたりと足を止めた。
鉄板の上で丸く焼かれていくたこ焼きに、じっと視線を注いでいる。

「見せてもらおうか、連邦軍のたこ焼きの性能とやらを!」

店主が舟皿に盛り、ソースと青のりをかけて差し出す。
「熱いから気をつけてね」と声をかけられたが、
「わかっている。ゲルググのデーターは頭に入れてある」
と、デシュは待ちきれず口へ放り込んだ。

あまりの熱さに口をぱくぱくさせるデシュ。
「だから言ったのに」
と、セシリアたちは堪えきれず笑い出した。

涙目のデシュが呟く。
「……今、君のようなニュータイプたこ焼きは危険すぎる」

再び笑いが弾け、祭りの喧騒に溶けていった。

「せっかくだから教授にも見せてあげたいわ。起きてるかしら?9時間の時差があるから、向こうは朝の8時か9時よね」
セシリアはスマホを取り出し、G教授にリモート接続した。

「教授、おはようございます。まだ寝てました?」
「なんだ、こんな早朝に」
「早くないです」

不機嫌そうな声とは裏腹に、画面に映る教授の顔はどこか嬉しそうだった。

「みんな元気そうだな!」
「教授、メールしたレポートの通り、出雲から東北に向かう途中で、今日は神戸に泊まるの。屋台が出てるって聞いて来てみたわ。見えます?日本最高よ!」

「ほう。イギリスにも屋台があるが、日本の屋台も美味そうじゃないか。
 そういえば先日、お前の親父さんの休暇の時、一緒に山にキャンプに行ったぞ。
 持ち物はナイフ2本のみ。食糧は現地調達だ。ヘビやウサギ、小鳥を捌いて焼いて食ったわい。今度、お前らにも食わせてやるよ。イギリス海兵隊直伝屋台だ」

と、一人呵々大笑するG教授に、皆、顔を見合わせ、
「遠慮しておきます」
と、揃って返事をし、接続を切った。
接続が切れる寸前、スピーカーから、
「おい!」
という声が聞こえたが、誰も気づかないふりをした。

「父も教授も元気そうね」
セシリアは安堵の笑みを浮かべた。
身近な人たちがつながり、楽しそうに交流している――その事実が、彼女にはたまらなく嬉しかった。

幼い頃からセシリアを見守ってきたイリスとロナも、その成長ぶりに目を細め、微笑みを交わした。

「せっかくだから、本殿にもお参りしていきましょう」
カミーユが境内の奥を指さす。

セシリアは深呼吸をし、静かに手を合わせた。
仲間たちもそれぞれの思いを胸に祈りを捧げる。

ふと、セシリアは夜空を見上げた。

――月はいつもそこにある。

『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、研究者として日本でのフィールドワークを開始。月の統治者“かぐや”からサイコフレームを託され、新たな使命を背負うことになる。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の紹介で、セシリアの旅を支える運転手となる。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアをアブダクションして最新型マイクロチップをインプラントし、ニュータイプ能力を授けた。常にセシリアに寄り添う良き理解者。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

デシュ
イリスがいる世界の保護猫♀で、「赤い彗星の再来」と呼ばれるネオ・ジオン大佐。イリスと同じ高性能マイクロチップがインプラントされているため、人間や異界の者たちとも意思疎通が可能。初めて食べたたこ焼きに悶絶する。
名前は読者さん命名。由来はフランス語で「堕天使」を意味するアンジュ・デシュ(Ange déchu)から。

G教授
考古学者で、セシリアの担当教授。異説・奇説を追い求める、考古学界きっての異端児。2009年に閉鎖されたイギリス国防省「UFO desk」出身の過去を持つ。彼女を日本へ派遣し、研究者としての成長を温かく見守る。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。


【朗読】ポータルクロニクル公式

使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:後鬼(カミーユ)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
VOICEVOX:ずんだもん(デシュ)
VOICEVOX:青山龍星(G教授)

エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂


Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第9話編集後記をお届けします

作中にも触れていますが、イリスの母船を使えば本来1,400km程度の距離など一瞬で移動できます。しかし『ポータルクロニクル』では、小説でありながら“読者が実際に体験しているかのようなリアリティ”を大切にしたいと考え、可能な限り現実の地理や条件を調べたうえで描いています。

そのため、

  • 出雲大社から座敷わらしが現れる東北の宿(岩手県二戸市を想定)までは約1,400km
  • 東北の山には富士の樹海のように母船を隠せる場所がないため、車移動が必須
  • 長距離移動ゆえ、途中で最低1泊は必要
  • 神戸・須磨周辺は阪神高速にも中国道にもアクセスしやすい
  • 劇中の天満宮は、綱敷天満宮(神戸市須磨区)がモデル
    ※ちなみに2026年の綱敷天満宮「初天神大祭」は、2026年1月24日(土)〜25日(日)と案内されています。
    綱敷天満宮 初天神大祭:近畿エリア | おでかけガイド:JRおでかけネット
  • G教授の勤務先はイギリス・デヴォン州のエクセター大学をモデルにしており、神戸市とは9時間の時差がある
  • イギリスにも屋台文化が存在する
  • セシリアの父が所属するイギリス海兵隊では、訓練でヘビ・ウサギ・小鳥などを捕獲して食べる

といった設定は、すべて現実に基づいています。

物語の“非現実”と“現実”の境界線を丁寧に描くことで、読者の皆さんがより深く世界に没入できるように──そんな思いで制作しています。