幻の富士王朝調査を終えたセシリアが言った。
「教授が講義で言っていたいくつかの日本のミステリーポイント、ここから一番近いのは出雲大社ね」
一行は車を走らせ、山陰の道を西へと向かった。
やがて視界に広がったのは、鏡のように静かな宍道湖。湖面は陽光を受けて銀色に輝き、遠くには水鳥の群れが舞っていた。湖畔に点在する松並木や温泉町の屋根瓦が、どこか懐かしい風情を漂わせている。
さらに進むと、出雲平野が一面に広がった。遠くには山の稜線が霞んで見える。広々とした平野の中に、社殿の屋根が点々と姿を現し、土地全体が神話の舞台であることを感じさせた。
セシリアは窓の外を見つめ、思わず呟いた。
「……イギリスの田舎とはまるで違うわ。どこか神話の世界に迷い込んだみたい」
イリスらも頷き、しばし言葉を失って風景に見惚れていた。
そして――
セシリア一行は、地元の博物館を訪れた。
学者の卵とはいえ、外国人である彼女は、出雲大社の名前と概要程度しか知らなかったため、身分と目的を係員に告げ、学芸員の案内を受けながらメモを取り、調査を進めた。
しばらく歩くと巨大な復元模型が目に飛び込んできた。
セシリアは古代出雲大社の高床式階段を見上げ、思わず声を上げた。
「……まるでクフ王の大ピラミッド内部の上昇通路のように、斜め上へと伸びてるじゃない!」
セシリアは、「角度や構造に何か共通点があるのでは……」と考え、学芸員に矢継ぎ早に質問を投げかけた。
学芸員は丁寧に答え、セシリアはそのやり取りを逐一記録していった。
Comparison of the Angles of the Elevated Stairway of Ancient Izumo Grand Shrine and the Ascending Passage within the Great Pyramid of Khufu
Elevated Stairway of Ancient Izumo Grand Shrine
・According to reconstruction studies, the angle is approximately 30–36 degrees.
・The wooden inclined stairway section is extremely steep, at around 36 degrees.
・Each step is over 30 cm high, requiring considerable physical effort to climb.
Great Pyramid of Khufu (Giza)
・The angle of the Ascending Passage and the Grand Gallery is about 26 degrees.
・The Grand Gallery is an enormous corridor measuring roughly 46.7 metres in length and about 8.7 metres in height.
・Constructed of stone, it was traditionally regarded as a royal tomb.
Similarities and Differences
・Similarities: Both structures feature steeply inclined passages and are strongly associated with religious or spiritual significance.
・Differences: Izumo Grand Shrine is a wooden sanctuary built for communal rituals and service to the deities. In contrast, the Pyramid of Khufu is a monumental stone structure long thought to be a royal tomb, though today its symbolic and ritualistic functions are more emphasised. Their design philosophies and cultural backgrounds differ markedly, and no evidence suggests any direct technological exchange.
Summary
The stairway angle of ancient Izumo Grand Shrine (30–36 degrees) is steeper than the approximately 26-degree incline of Khufu’s Pyramid. Their only real commonalities lie in their steep gradients and religious roles, and no direct structural or design connection can be identified.
「古代出雲大社の高床式階段とクフ王の大ピラミッド内の上昇通路の角度の比較」
古代出雲大社の高床式階段
・復元研究によると角度は約30〜36度
・木造の斜め階段部分は36度程度と非常に急
・踏み段の高さは30cm超で、登攀には体力を要する
クフ王の大ピラミッド(ギザ)
・上昇通路及び大回廊の角度:約26度
・大回廊は長さ約46.7m、高さ約8.7mの巨大通路
・石造建築で、従来は王墓と考えられていた
共通点と相違点
・共通点:いずれも急傾斜の通路を持ち、宗教的・霊的意味合いが強い建築物
・相違点:出雲大社は木造の神殿であり、共同体の祭祀や神への奉仕を目的とした建築である。一方、クフ王のピラミッドは石造の巨大建築で、従来は王墓とされてきたが、現在ではむしろ宗教的象徴性や祭祀施設としての性格が強調されている。両者の設計思想や文化的背景は異なると言わざるを得ず、直接的な技術交流を示す証拠は存在しない。
まとめ
古代出雲大社の階段角度(30〜36度)は、クフ王のピラミッドの約26度より急である。両者に共通するのは「急勾配」と「宗教的役割」程度であり、構造や設計に直接のつながりは認められない。【参考】島根県立古代出雲歴史博物館
所在地:島根県出雲市大社町杵築東99-4
主な展示内容:平安時代本殿の1/10復元模型(高さ約96m説に基づく)、出雲大社から発掘された 宇豆柱(うづばしら) の実物展示、荒神谷遺跡及び加茂岩倉遺跡の国宝青銅器(銅剣358本・銅鐸39個など)、神話シアター「出雲神話回廊」
この博物館は、古代出雲大社の「幻の巨大神殿」の姿を学術的に再構築し、参拝前に歴史的背景を理解するための拠点として位置づけられている。
メモを取り終えた後、セシリアは学芸員に向き直った。
「この展示は特に印象的でした。イギリスの遺跡とはまた違う迫力です。実際に柱の跡を目にすると、伝説の巨大神殿が本当に存在したのだと実感できますね。木造建築でこれほどのスケールを建造するなんて、驚きだわ」
学芸員はにこやかに頷き、少し声を弾ませて言った。
「そう感じていただけたなら嬉しいです。もしお時間があるようでしたら、ぜひ実際に出雲大社に参拝されてはいかがでしょうか。展示でご覧いただいたものとはまた違った空気を感じられると思いますよ。境内の雰囲気は、季節や時間帯によっても表情を変えるんです」
学芸員の言葉に背中を押されるように、彼女たちは出雲大社へと向かった。
正午を過ぎ、境内は明るい日差しに包まれていたはずだった。
しかし、拝殿に手を合わせた瞬間――
空気が揺らぎ、景色が変わった。
気づけば、周囲は夜の闇に包まれ、眼前には復元模型が実物大に拡張されたかのような、古代出雲大社がそびえ立っていた。
「ポータルの中へ……」
どこからともなく、通信機器の音が混ざったような若い女性の声が響く。
「えっ!? イリス、何か言った?」
「いいえ。私たちにも聴こえたわ」
『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、日本でのフィールドワークを開始。古代出雲大社の調査に取り掛かる。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアらと出雲大社へ向かう。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。
【朗読】ポータルクロニクル公式
使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
VOICEVOX:栗田まろん(博物館学芸員)
VOICEVOX:ナースロボ_タイプT(若い女性の声)
エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂
Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第6話編集後記をお届けします
古代出雲大社の急勾配の階段と、クフ王の大ピラミッド内部にある上昇通路。その共通する角度の鋭さから、私は「神に近づき、神と交信するための施設だったのではないか」と考察しました。しかし物語の中では、セシリアにはあくまで学者としての姿勢を貫かせ、オカルト的解釈ではなく、科学的視点から淡々とメモを取る描写にしました。彼女の“冷静な眼差し”が、物語世界の厚みを支えてくれると感じたためです。
そして、2026年の幕開けにあたり、私・高橋剛は、これまで名乗ってきた「創作家」という肩書きを進化させ、「未来叙事創作者(Future Narrative Creator)」として活動していくことにいたしました。
この肩書きは、私がこれまで取り組んできた
・物語創作
・心理的アプローチ
・世界観設計
・AIとの共創
といった複数の領域が、ひとつの軸へと統合された結果、生まれたものです。
『ポータルクロニクル』を中心に、「未来の叙事(Narrative)を紡ぎ、読者の自己理解と世界観の拡張につなげる」という活動の本質を、より正確に表す言葉として選びました。
2026年は、“世界最先端のさらに先の未来へ”をスローガンに、物語と心理とAIが交差する新しい体験を、より深く、より美しく形にしていきます。
本年も、皆さまの心に静かな光を灯すような物語と世界観をお届けいたします。
どうぞよろしくお願いいたします。

