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ポータルクロニクル 第5話「異界のニュータイプ・前編」

イリスは、セシリアと四六時中、一緒にいるわけにはいかなかった。普段は母船にいて、観測を行う必要がある。だが、セシリアの孤独を思うと、心残りがあった。

「私の代わりに、彼女のそばにいてくれる存在を呼ぼう」

イリスは母船のイスに腰を下ろし、量子通信端末を起動した。
呼び出したのは、かつて共に学び、信頼を寄せる友――ロナだった。
いま彼女は、父親との確執から家を飛び出し、行き場を探している最中だった。

「久しぶりね、ロナ。お願いがあるの」

短い説明を聞いたロナは微笑んだ。

「もちろん。すぐに行くわ」

通信が途切れると同時に、イリスの胸に安堵が広がった。 やがて、母船のハッチが開き、ロナの姿が現れる――。

それは、燃えるようなオレンジ色の髪を持つ、イリスと同じ背丈の妖精だった。背中には透き通る羽があり、赤を基調とした軍服を纏っている。

「ロナ。来てくれたのね」
「ええ。人間の世界に興味があったし……それに、父と顔を合わせているくらいなら、こっちの方がずっといいわ」

ロナは宇宙海賊〈マザー・バンガード〉の元艦長であり、今も軍属として籍を置く存在だった。だが、父との関係は冷え切っており、距離を置きたいと強く願っていた。イリスはその心を察し、セシリアのもとへ行くことを提案したのだ。

――村の裏手にある森。セシリアがかつてアブダクションされた丘の奥。イリスはセシリアをそこへ連れて行き、ロナと引き合わせた。

「妖精って、身近なところにいるのよ」
イリスの言葉に、セシリアは目を丸くする。

ロナはセシリアの目線に合わせるように軽くしゃがみ込み、にっこりと笑った。
「私はロナ。これからはあなたの話し相手になってあげるわ。いつでもね」

セシリアは嬉しそうに頷いた。
ロナはただの妖精ではない。
その姿は誰にでも見えるが、心に邪心を抱く者には決して見えない。
純粋さを持つ者だけが彼女と向き合い、言葉を交わすことができるのだ。

その様子を見ていたイリスは、静かに微笑みながら言った。
「人は決して正真正銘のひとりぼっちではない。気づかないだけで、必ず誰かが見守っているのよ」

少し間を置いてから、イリスは続けた。
「それに……ロナと同居したらどうかしら。彼女は邪心を持つ者には決して見えない。だから安心していいのよ」

セシリアは驚いたようにロナを見つめ、やがて笑顔を浮かべて頷いた。
「……うん。ロナと一緒なら、寂しくない」

ロナもまた、柔らかく微笑んで答えた。
「私も異存はないわ」

イリスは満足そうに頷いた。
「決まりね。セシリア、あとはお父さんに紹介するだけよ」

『ポータルクロニクル』
©2025 高橋剛(創作家)/AI支援


【朗読】ポータルクロニクル公式

使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読/セシリア)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
VOICEVOX:中部つるぎ(ロナ)

エンディングテーマ
ミッドナイトムーン/甘茶の音楽工房


登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸となる存在。幼少期にアブダクションを経験した過去を持ちながら、その記憶は封じられている。イリスに導かれ、妖精ロナと出会い、瞬時に心を通わせる。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
北欧の女性を思わせる姿をした宇宙的存在。四六時中セシリアと共にいられない自分に代わる存在として、妖精ロナを量子通信で呼び寄せ、セシリアに引き合わせた。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

ロナ
イリスの信頼を受け、量子通信で呼び寄せられた燃えるようなオレンジ色の髪を持つ妖精。父親との確執から家出中。人間界に関心を寄せており、セシリア宅での同居を快く受け入れた。宇宙海賊マザー・バンガードの元艦長で、現在も軍属。天然ニュータイプで、イリスからニュータイプ能力を授かったセシリアとは心を通わせる最初の仲間となる。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。


Chronicle FM

©音読さん

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