「私たち、毎月1回、宿泊客以外のお客さんも呼んで、『百鬼夜行の館ライブ』という怪談ライブをやっているんです。今夜、夕食後にそのライブを広間で開催するので、もしよろしければご一緒にいかがですか?」
「せっかく遠くから来てくださったんですもの。東北に伝わる座敷わらしや雪女の話を、ぜひ聞いていただきたいんです」
「怪談ライブ!?」
えりの言葉に、セシリアは思わず息を呑んだ。
(イングランド南部のニュー・フォレストでは、歴史と民間伝承を織り交ぜた「Tales & Ghosts Walks」という、ガイドがその場で幽霊譚やフォークロアを語る散策イベントがあるけど、日本は座ったまま聴くのか――)
セシリアは目を輝かせ、仲間たちと顔を見合わせた。
「素敵!ぜひ参加させてください」
夕食後、広間に入ると、行灯の灯りが畳に柔らかい影を落とす。
障子越しに虫の声が響き、外の夜気がひんやりと漂ってくる。
一般のお客さんが続々と集まり出し、セシリアたちも腰を下ろしてえりとあおいを待った。
しばらくして、えりとあおいが広間にやって来た。2人は正座し、裾を軽く整えると口を開いた。
「はじめまして、私はえり。妖怪を愛する語り部ユニット「百鬼夜行の館」の主宰をしています。いつもこの座敷わらしの姿で接客しているんです」
「私はあおい。同じく「百鬼夜行の館」のメンバーで、セクシーな雪女を担当しています」
「“百鬼夜行”というのは、昔の妖怪たちが夜に行列をなすという伝承から取った名前です。でも、私たちにとってはただの怪談ではなく、妖怪を語り継ぎ、楽しみ、現代に生かすための合言葉なんです。物語やコスプレを通して妖怪の魅力を広めることが、引いては地域おこしの一環にもなると信じています」
えりは灯りの影を追いながら、静かに物語の扉を開いた。
「座敷わらしは、岩手を中心に伝わる子どもの姿をした妖怪です。家に住みつき、姿を見た者には福をもたらすとされてきました。逆に、その姿が見えなくなると家が衰退すると言われています。だから、東北の人々にとっては“家を守る存在”なんです」
「……けれど、その由来には悲しい話もあります。昔、口減らしのために幼い子どもが命を奪われたことがありました。その子の魂が家に留まり、座敷わらしとなった――そういう言い伝えもあります」
あおいは静かに話を受け継いだ。
「雪女もまた、ただの怪異ではありません。岩手のように雪深い山では飢饉や災害のたびに、若い娘が生贄として山に捧げられたという伝承が残っています。雪に消えた娘たちの無念が、吹雪の夜に姿を変えて現れる――それが雪女だと」
「だから彼女は、人を凍らせる恐ろしい存在であると同時に、犠牲になった者たちの記憶そのものでもあるんです」
(これはただの怖い話ではなく、時代に翻弄され、犠牲となった人々の記憶と祈りが宿るものだわ)
セシリアは涙を拭いつつも、胸の奥が温かくなるのを感じ、何度も頷き、
――私は単なる記録者ではなく、いにしえの者たちが存在した証を、未来へと繋ぐ者であろう
と、深く胸に刻んだ。
広間の灯りが揺れた。
その刹那、セシリアは誰かの小さな笑い声を聞いた気がした。
彼女はそっと目を閉じ、その声に耳を澄ませた。
『ポータルクロニクル』
©2026 高橋剛(未来叙事創作者)/AI支援
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の推薦を受け、研究者として日本でのフィールドワークを開始。座敷わらし調査で訪れた東北の旅館で、妖怪を愛する語り部ユニット「百鬼夜行の館」の2人と出会う。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
えり
妖怪を愛する語り部ユニット「百鬼夜行の館」主宰。座敷わらしのコスプレで、旅館で接客を担当している。あおいとは同級生でプリキュアのような仲良しコンビ。生粋のアニメオタクで、セシリアの日本アニメの知識はえりのブログから得ていた。俳優・原田龍二氏の大ファン。好きなTV番組は「世界の何だコレ!?ミステリー」。
名前の由来は「ラブライブ!」に登場した絢瀬絵里から。
あおい
妖怪を愛する語り部ユニット「百鬼夜行の館」メンバー。雪女のコスプレで、旅館で接客を担当している。えりとは同級生でプリキュアのような仲良しコンビ。プロポーションには絶対の自信があり、ラクス・クラインをライバル視している。
名前の由来は「ゆるキャン△」に登場した犬山あおいから。
【朗読】ポータルクロニクル公式
使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読)
VOICEVOX:もち子(cv 明日葉よもぎ)(セシリア)
VOICEVOX:四国めたん(えり)
VOICEVOX:春日部つむぎ(あおい)
エンディングテーマ
切なく儚いサイバー12/魔王魂
Chronicle FM

こちらはChronicle FM、Season 2 第11話編集後記をお届けします
座敷わらしと雪女という、日本を象徴する妖怪の物語をいつか書きたいという思いは以前から抱いており、今回ようやく形にすることができました。
そこで当初、霊体としての座敷わらしや雪女を直接登場させる構想で書き進めていました。しかし、本作が大切にしている“現実的没入感”との調和を考えると、超自然的な存在を主役に置くことは現実感を損なうと判断し、気配だけをほのかに漂わせつつ、人間が語る怪談へと路線を変更しました。
しかし、ただの怪談として消費されるのではなく、「時代に翻弄され、犠牲となった人々の記憶と祈り」として描きたいという意図を物語に込めました。
えり&あおいによる、妖怪を愛する語り部ユニット「百鬼夜行の館」という名称は、新日本プロレスのヒールユニット「ハウス・オブ・トーチャー(拷問の館)」から着想を得たものです。プリキュアのような仲良しコンビというコンセプトに、「ハウス・オブ・トーチャー(拷問の館)」の語感を重ね合わせるという、意外性の組み合わせが、ユニット名の源になりました。
余談ですが、ちょうどSANADA選手とEVIL選手の新日本プロレス退団が報じられ、ユニットの今後も含めて、新日本プロレスにとって、節目の時期を迎えているようです。
いまや怪談ライブや妖怪イベントは、全国的な広がりを見せています。えり&あおいのように、妖怪を愛する仲間とユニットを組んで活動してみるのも、一つの豊かな楽しみ方でしょう。そうした取り組みが、結果として鎮魂の営みとなり、地域文化を支える力へとつながっていくのではないかとも感じています。
もし、すでにそのような活動をされている方、あるいはこれから始めようとしている方がいらっしゃいましたら、ご一報いただければ私としても嬉しく思います。

