霧と石畳の国イギリスで、ひとりの少女は星を見上げていた。
少女の名は――セシリア・フェアチャイルド。
日本でいえば小学一年生にあたる7歳。
同じ村の子どもたちとうまく馴染めず、胸の奥に小さな棘のような生きづらさを抱えていた。
遊びの輪に入っても心から笑えず、どこか窮屈で、居場所を探すように夜空を仰ぐことが多かった。
その夜も、羊の群れが草を食む丘の上で、ひとり流星を追っていた。
夜風が頬を撫で、村の灯りは遠くに沈み、ここだけが世界から切り離されたように静かだった。
そのとき、一筋の流星が異様に瞬き始める。呼吸をするように明滅し、光は次第に強さを増していく。羊たちが一斉に顔を上げ、風が止み、音が消える。世界が息を潜めた。
セシリアの胸の奥に、言葉にならないざわめきが広がる。──何かが始まろうとしている。
光は夜空を塗り替え、足元の草が水面のように揺らぎ、波紋が広がっていく。
夜空を裂くように流れた光は、ただの流星ではなかった。光は星図のように結び合い、無数の線と点が空間を走る。彼女の視界を包み込むように、眩い閃光が降り注いだ。
眩しさに目を閉じたはずなのに、彼女は見ていた。
──気づけば、そこはもう丘ではない。
滑らかな金属の床、無機質な曲線を描く壁。
窓の外には、渦を巻く青い銀河が広がっている。
セシリアは光に包まれたまま、異界の内部に立っていた。
地上のどこにも存在しない、異質な静寂。
セシリアは悟った。ここは地上ではなく、宇宙空間に浮かぶUFOの内部。
もはや家には帰れないかもしれない――。
その思いが胸を締めつける。
けれど同時に、彼女の心の奥底で、何かが決意へと変わっていった。
そのとき、ひとりの存在が現れる。
長い金髪が銀色のスーツの肩に流れ、青い瞳は深い湖のように澄んでいる。
北欧の若い女性を思わせる顔立ちだが、その静謐な気配は人間のものではなかった。
「ようこそ。私の名前はイリス。」
セシリアは思わず口を開いた。
「ねぇ……宇宙って、自由?」
イリスは微笑み、静かに言葉を紡いだ。
「鳥が風に身を委ねるように、星はただ軌跡を描き続ける。
束縛も、恐れも、そこにはない。
お前もまた、もっと自由に生きよ。
その答えは、お前自身の旅の中にある。」
彼女はゆっくりと歩み寄り、セシリアの額に手をかざす。
手のひらが触れた瞬間、セシリアの額に光が水面のように波紋を描き、やがて星図のように広がっていく。
六芒星の紋様が浮かび上がり、セシリアの全身を包み込んだ。
その光は、彼女の内なる扉を開くかのように、静かに脈動していた。
イリスは、セシリアに何らかの力を授けたのだ。
やがてセシリアのまぶたは重くなり、意識が遠のいていく。
彼女は静かに眠りへと落ちていった。
──翌朝、目を覚ましたとき、昨夜の出来事を思い出すことはなかった。
ただ、流星を見上げるたびに胸の奥がざわめくようになった。
『ポータルクロニクル』
©2025 高橋剛(創作家)/AI支援
【朗読】ポータルクロニクル公式
使用音声ソフト
VOICEVOX:小夜/SAYO(朗読/セシリア)
VOICEVOX:東北きりたん(イリス)
エンディングテーマ
ミッドナイトムーン/甘茶の音楽工房
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸となる存在。 幼少期にアブダクションを経験した過去を持ちながら、その記憶は封じられている。 不思議世界への関心を胸に過ごす。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
イリス
北欧の女性を思わせる姿をした宇宙的存在。
深い青の瞳と金色の髪を持ち、静謐な気配を纏う。
セシリアにとって「導き手」であり、「問いを投げかける存在」。
彼女の言葉は、セシリアの心の奥に眠る“自由への希求”を呼び覚ます。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。
Chronicle FM
©音読さん
六芒星使用の意図
秋山眞人氏が宇宙人に出会って最初に見せられたシンボルマークが三角形と六芒星だそうです。古代ムー大陸のシンボルも六芒星と言われています。
調和とバランス、エネルギーの統合、宇宙の秩序とつながり、幸運の引き寄せと保護を意味するとされています。
「ポータルクロニクル」でも象徴的なシンボルマークとして採用しました。
朗読動画制作
VOICEVOXという無料音声生成ソフトツールを使って制作しました。
- 漢字の読み
- 文節ごとにイントネーションを修正(機械朗読なので、修正してもイントネーションに揺らぎが出る)
- 1行ごとの朗読スピード調整
- 行間開けの時間を調整
と、非常に手間のかかる作業でした。

