ポータルクロニクル Season 5 第4話「天空の書架」

その頃、G教授とセシリアは――

「ここか」
13階に到着し、エレベーターの扉が開くと、そこは図書館へ直結していた。

「Oh my God!」
G教授もセシリアも、思わず感嘆の声を上げた。

2人は圧倒されつつ、前に進んだ。

各机にはタブレットが置かれており、G教授は近くの1台を手に取った。
「これで検索しろということか?試しにSphinx(スフィンクス)と打ち込んでみるか」

タブレットは中央の大型モニターと同期しているらしく、スフィンクスの画像が映し出される。同時に、タブレットには記号・番号と、現在地からのルートがピンクのラインで表示された。

「どうやら本の位置を示しているようだな。ずいぶん遠い……。セシリア、私のノートPCも持ってついてきてくれ。通路にあるテーブルで作業するか」

セシリアは2人分のノートPCを抱え、後ろからついていく。

「教授、周りを見て」
「?」
「ぐるっと一周してみて」

見渡すと、13階すべてが図書館だった。

「何だこりゃ……街だな。街全体が図書館だぞ!」
「そう。私も今、ふと気づいたのよ」

母船の巨大さは知っていたが、階そのものが図書館とは想像もしていなかった。2人は興奮を隠しきれない。

「ここは天国よ、天国!毛布持ち込んで住み着こうかしら」
「お前は何を言ってるんだ?しかし、激しく同意する」

2人は笑い合いながら、タブレットの矢印に従って進む。

「エレベーターに乗れと出ている。この図書館自体にもエレベーターがあるのか」
「本当に街ね……」

目的地に着くと、G教授はスフィンクス関連の書物を数冊引き出し、目を通した。

「なるほど……興味深い。イリス達が地球出身者で良かったな。英語で書かれているから読める。
 しかしこれは全部読むとなると何十年かかるかわからんぞ。セシリア、レポートに関連する部分の本だけピックアップしてくれないか?」
「おい!」

セシリアは興奮のあまり、あちこちの棚からスフィンクスとは無関係な、自分が気になる書物を引っ張り出していた。

「ごめんなさい。テンション上がっちゃって」
「うむ。激しく同意する」

2人はまたもや顔を見合わせて笑い合った。

「セシリア、論文じゃないから気は楽だが、そろそろ書かないと、いくら時間があっても足りんぞ。お前はエジプト政府向けの分を書け。私はラシードに出す分を書く。ラシードの奴、アカシックレコードの話に狂喜乱舞するぞ」
「わかったわ。私の北斗百裂拳を見せてあげる」

セシリアは目を閉じ、両手を合わせて深く息を吐き、軽く瞑想をした。
次の瞬間、目をカッと見開き、『北斗の拳』のケンシロウの構えを取り、書物とノートPCを交互に見ながら超速タイピングを開始。あっという間にレポートを仕上げてしまった。

「アニメオタクの真骨頂だな」
G教授は呆れつつも、愛弟子の姿を微笑ましく見守っていた。

それからしばらくして――
「私も完成したぞ!」
G教授はため息まじりに自分のレポートを眺めた。

「ドクターはダウンロード自由と言っていたな。レポート作成に使った部分だけデータをいただくか」
タブレットで方法を確認する。
「ふむ、このタブレットから欲しい部分を指定できるのか。そしてディスクに焼かれて、中央の大型モニター下の機器から出てくると……早速やってみるか」

G教授は出てきたディスクをノートPCに入れてみた。
「ほほう、出てきた出てきた!しかし地球のノートPCではこのダウンロードした容量分が限界だな。イリス達の科学力に比べたら、我々のPCなどおもちゃみたいなものだからな」
「できることなら全冊のデータが欲しいわね」
セシリアも同調する。

その時――中央モニターにヘンリーが映し出された。

「どうじゃね?捗っておるか?」
「はい。おかげさまで2人ともレポートが完成しました」

「さすが仕事が早いのお」
「スフィンクスの一部分だけダウンロードさせていただきましたが……」
「なんじゃ、許可を出したのじゃから遠慮せんでもよかろうに」
「いただきたいのはやまやまですが、地球のノートPCでは容量が足りなくて」
「そうか。また来るといい」
「是非また」

セシリアが声を弾ませる。
「ヘンリー先生、ここは天国ですよ!毛布持参で住みたいです!」
「はっはっはっ。お前さんも面白い奴じゃのう。教授とお前さんには既に使用許可が出とる。次からは顔認証で通れる」
「本当ですか?ありがとうございます!」

「ところでじゃ。例の女が目を覚ましよった。この船に常駐しているNBCテロ対策部隊が医務室に乗り込んで来ての。部隊立ち会いの元、10分後に医務室隣の会議室で事情聴取じゃ。来れるか?イリスとロナには既に伝えておいた」
「わかりました。教授と一緒に伺います」

「やはり穏やかな事案ではないようだな」
「ええ。彼女はニュータイプ……きっと」

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。救命ポッドの乗組員の女性は、戦場に特化したニュータイプであると見抜く。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

G教授
イギリス国防省「UFO desk」元職員にして、政府のオープンコンタクト推進派メンバーでもある考古学者。セシリアの公私にわたる恩師であり、教授職を退官し、名誉教授となった。個人事務所「Professor G Archaeological Institute」を開設し、メンバーを率いてフィールドワークをしている。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。

ヘンリー・フィーア
イリス一族の専属ドクター。専門は産婦人科。人呼んで「スーパードクターH」。母船「ラビアンローズ」の常駐医師兼副長的立場として指揮を執っている。イリス、ロナ、かぐやから“変なおじさん”認定をされている。
名前の由来は小説『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』から。

編集後記

今回は、母船「ラビアンローズ」内にある図書館を訪れたG教授とセシリアの場面を描きました。図書館好き・本好きの方に響いていたら嬉しく思います。
巨大母船の一階層すべてが図書館という、まるで街が丸ごと収まったかのような異質なスケール感に、幼少期から図書館通いをしていたセシリアは終始テンションが高く、その様子が伝わったのではないでしょうか。

フィールドワーク中のセシリアは学者然とした言動が多いですが、本来のアニメオタクな面が再び垣間見え、懐かしく感じていただけたかもしれません。書いていると、当初考えていた展開とはまったく異なるシーンが思い浮かび、キャラクターが自律的に動き出すように感じる瞬間があります。

今でこそネット全盛、そして近年はAIの急速な進化により資料検索も容易になりましたが、私が20代前半の頃はWindows 95がようやく登場した時代で、ネットで調べるより図書館へ行くか、教員に直接聞いたほうが早いという感覚でした。今回の話と同じように、レポート課題を書くために、隣区の図書館へよく通ったものです。

最近では、私の住む東京でも書店が次々と姿を消し、その場で本を手に取って選びたい私としては、本当に不便です。皆さんのお住まいの地域では、いかがでしょうか。
非常に厳しい時代ですが、本に関わる何かしらの活動をされている方がおられましたら、どうかその歩みを止めずにいていただければと思います。