ポータルクロニクル Season 4 第9話「オーパーツの夢と現実」

「教授、教授にも質問いいかしら?」
「今度は何だ?」
カミーユがG教授に話しかける。

「それよりカミーユ、足を組むなり閉じたらどうだ?」
「何言ってるの。私は元傭兵で、今は教授たちの警護をしてるの。両足をやや開いて接地し、すぐに立ち上がれる重心を取るのは基本よ。即応性ってやつよ」

カミーユが話を続ける。
「学生の頃に何かの雑誌で見たんだけど……デンデラの電球って言うんでしたっけ?楕円形のガラスにフィラメントみたいなものがあって、ケーブルまで描かれてるっていう……あれって……」

「ああ、あれか」
G教授は軽くため息をつきつつも、どこか楽しそうに話を続けた。

「あれは古代エジプトの神ハルソムトゥスが、蓮の花から生まれる蛇として描かれたものだ。宇宙創造、再生、光の誕生を象徴している。楕円形の容器は天空の女神ヌトの子宮、フィラメントに見える部分は蓮から生まれる蛇だ。蓮は再生の象徴、蛇は生命力と太陽神の化身。ケーブルに見えるのは“神の誕生を支える宇宙の柱”だ」

「じゃあ電球じゃないのね」

「よく考えてみろ。もし本当に電球なら、電力はどこから供給する?コンセントは?メンテナンスは?神話体系や他のレリーフとの整合性を無視した誤読だよ」

カミーユは「なるほど」と頷く。

「じゃあ、あれは?ヘリコプターとか戦車に見えるっていうレリーフがあるじゃない」

「セティ1世神殿のやつだな」

「最初に刻まれたのはセティ1世の王名。その後、息子のラムセス2世が石膏で埋めて上から自分の王名を刻んだ。数千年かけて石膏が剥がれ、2人の刻印が重なって見える。それがヘリコプターだの戦車だの潜水艦だのに見える。人間の脳が“見慣れた形”を読み取る錯視だ。実在したとして、燃料や弾薬はどうする?特に潜水艦のメンテナンスなんかどうやってやるんだ?」

「確かに……」

「だろ?オーパーツを造れるほどの技術力があるなら、わざわざヘリコプターみたいな回転翼機なんか造るか?円盤型やTR-3Bのようなデルタ型、ブーメラン型UFOのような空気抵抗が遥かに少ない航空機を造ったほうが良くないか?合理的に考えればわかることだ」

「それもそうね。長年のモヤモヤが解消されたわ」
「それは良かった。私も珍説・奇説ばかりを追い求めている男だが、違うものは違うのだよ」

「余談だが、ピラミッドも、“特殊な超音波で反重力を発生させて石を浮かせて積み上げた”とか、“王の間の棺には反重力発生装置であるアークが入っていた”とか、“ピラミッドはフリーエネルギー発生装置だ”とか、まあ色々言われている。どれも突拍子もない説だが、歴史に興味を持つのは良いことだ。オーパーツには夢やロマンがあっていいじゃないか。それが本物であれ偽物であれ、モチベーションの一つになる」

「さて、デシュも待っていることだし、そろそろ出るか」

G教授は会計を済ませ、デシュの分の食材が入った容器を受け取り、一行はシャトルへと向かった。

登場キャラクター紹介

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。G教授に長年疑問を抱いてきたエジプトオーパーツについて質問する。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

G教授
イギリス国防省「UFO desk」元職員にして、政府のオープンコンタクト推進派メンバーでもある考古学者。セシリアの公私にわたる恩師であり、教授職を退官し、名誉教授となった。個人事務所「Professor G Archaeological Institute」を開設。スフィンクス調査を終え、研究員と食事を共にする。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。

編集後記

はしたないと言えばそうなのですが、足の開き方や重心の置き方といった所作から、カミーユが本当に戦場を知る人物であることが自然と滲み出るように描きました。
また彼女はヨーロッパ戦線で戦っていたことから、現地語での簡単な日常会話ができるという、意外と博識な一面も持っています。日本にいる頃に触れた雑学を記憶しているあたりにも、彼女の見識の幅広さが伺えます。

お察しの通り、私自身もオーパーツが大好きなので、今回はカミーユとG教授の対話という形式で、エジプト・オーパーツを題材にしてみました。
しかし、オーパーツにはロマンがある一方で、疑わしい部分が多々あるのも現実です。
G教授の「違うものは違う」と言い切る学者としての矜持は、愛弟子であるセシリアにも脈々と受け継がれています。