ポータルクロニクル Season 4 第7話「アカシックレコード・後編」

セシリアがまたも言い返す。
「じゃあ、我々地球人は監獄の中で一生を終われということ?人間の運命や宿命は決まっていて、変えようがないから諦めろと?」

黙って聴いていたファラが、静かに立ち上がった。鋭い視線がセシリアを射抜く。

「まず、地球人が“監獄の中”という話ですが……」

ファラはイリスとカミーユを交互に見やり、問いかける。
「お名前は?」

「私はイリス」
「カミーユよ」

「地球文明は、大小合わせて8度滅亡しています。そのある滅亡の間際、イリスさんの先祖は地球を脱出し、他の星へ移住。そこで地球外知的生命体の協力を得て、“第二地球文明”ともいえる独自の文明を築いた」

イリスが静かにうなずく。
「その通りよ」

「一方、地球に残った人々の子孫がカミーユさんたちです。彼らは地球に留まり、現在の文明を築き上げた。しかし――人は同じ過ちを繰り返す。イリスさんの先祖の時代と同じように、地球は再び滅亡の道へ向かっています」

ファラの声は淡々としているが、どこか哀しみが滲む。

「地球人は、激しいネガティブな力を渦の中心へ圧縮していく種族です。限界を迎えれば爆発し、文明は滅びる。
 しかし、自分たちが“無限のカルマ”に囚われていることに気づけば、道は変わります。二者択一ではなく、“第三の道”を選べるかどうか。それが鍵です」

「多くの地球人がその意識を持てば、三次元を超えた認知力が芽生え、地球の時間軸も空間軸も変化し、次のステージへ移行できます」

ファラは再びセシリアをまっすぐ見た。

「次に、運命や宿命が決まっているかどうかですが……概ね決まっています。
 前世を終え、今世に転生する際、“次はこういう設定で、こういう悩みや宿命を背負って生まれる”と、自ら決めて転生します。それは魂のトレーニングのためです。
 その際、前世の記憶は消去されます。ごく稀に記憶を保ったまま生まれる方もいますが」

「確かに、自分で決めたことですし、変えようがないと言えばその通りでしょう。しかし――だからといって、あなたは何もしないのですか?
 その程度のものなのですか、“ニュータイプ”とやらは」

セシリアは息を呑む。

「あなたの隣にいるかぐやさんは、地球外知的生命体と日本人とのハイブリッドの末裔として、極めて特異なDNA構造を持って生まれ、眉間にマイクロチップ、胸骨にサイコフレームをインプラントし、荒廃した月の代表として指揮を執ることになった。
 それは彼女自身ではどうにもできない宿命です。
 ――セシリアさん。あなたから見て、彼女は“不幸で救いがたい人”なのですか?」

「悲しい宿命を背負って生まれたから不幸なのでしょうか。苦難がないから幸福なのでしょうか。
 あなたは何に命を使うのですか?」

ファラの声は、厳しさの奥に温かさを含んでいた。

セシリアと目が合ったファラはふっと微笑む。
「セシリアさん、あなたは面白い人ですね。いつかまたお会いしましょう」

そして皆を見渡した。
「帰りは私の後ろにあるポータルを通ってください。元の時間軸に戻れます。そのように調整してあります」

セシリアはゆっくりと顔を上げ、まっすぐファラを見つめた。
その瞳には、先ほどまでの反発ではなく、何かを受け止めた者の静かな強さが宿っていた。

「……あなたの言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ軽くなった気がするわ。
 宿命なんて、そんなの、ずっと忌まわしいものだと思っていた。でも……もしそれが“使命”でもあるのなら……私は信じてみたい。
 ――私もまた会いたいわ、ファラ」

セシリアらは一人ひとり、ポータルを通って帰っていった。
ファラも微笑みながら見送った。

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。アカシックレコードの“間”でのファラとの邂逅を通じて、精神的な成長の契機を迎えた。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。アカシックレコードの“間”でファラと邂逅する。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。アカシックレコードの“間”でファラと邂逅する。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

ファラ
アカシックレコードの“間”を守護する若き女性管理人。静かな佇まいの奥に、宇宙の理を見通す深い洞察と強い信念を宿す。彼女の語る言葉は訪れた者の内面を揺り動かし、進むべき方向を照らす。
名前の由来は、「Vガンダム」に登場するザンスカール帝国軍“ベスパ”所属の女性士官ファラ・グリフォンから。

編集後記

ファラのセリフ「人は同じ過ちを繰り返す」は、『機動戦士Ζガンダム』第36話「永遠のフォウ」でアムロ・レイが語ったセリフですね。
文明の循環や人間の本質を扱う今回のテーマと響き合うため、引用しました。

また、「ファラの声は淡々としているが、どこか哀しみが滲む。」の直後に続くセリフは、超常現象研究家・秋山眞人さんが書籍やYouTubeで繰り返し語られていた思想を参考にしています。
私たちは二者択一の場面で、どちらかに偏ったり、あるいは両方にしがみついたりしがちです。しかし、本来はその外側に“第三の道”が存在する――その視点は、今回の物語の核となるテーマでもあります。

さらに、「ファラは再びセシリアをまっすぐ見た。」から「セシリアは息を呑む。」にかけてのセリフは、仏教的な視点を踏まえて構成しました。
宿命・業・転生といった概念は、物語世界の設定と親和性が高く、キャラクターの精神性を描くうえで重要な要素となっています。

ファラの「何に命を使うのか」という問いは、今回のエピソードの中心的なテーマです。
その答えは、読者の皆様それぞれの内面に委ねたいと思います。

ポータルクロニクルは、いわばセシリアの精神的な成長譚でもあります。
彼女がファラとの対話を通じて“宿命と使命”の本質に触れていく過程は、読者の皆様の内面にも静かに響くものがあるはずです。
セシリアという人物を通じて、何か一つでも感じ取っていただければ幸いです。