「デシュ、偵察も兼ねて先行してくれ。その後に私とセシリアが続く。カミーユは最後尾で後方監視だ。皆、狭くて暗いから気をつけて入れ!」
G教授の指示に従い、一行はスフィンクスの尾の付け根に開いた、わずか人ひとりが通れるほどの裂け目へと身を滑り込ませた。
砂の匂いと石の感触が、背中を押し返してくる。
「みんな、無事か」
「頭上に注意して進め」
身をかがめたまま数分ほど進むと、急に天井が高くなり、立ち上がれる空間に出た。
「……待て。前方に光だ」
G教授の声に、全員が足を止める。
暗闇の奥に、白い光がぼんやりと浮かんでいた。
「おい……これは何だ!」
「白い床に白い壁……照明まである。人工物だぞ、これは!」
「所々に部屋のような区画もあるな……」
スフィンクス内部に、こんな構造物が存在するはずがない。
G教授の顔色がみるみる変わった。
あり得ない光景を前に、理解が追いつかない。
研究者としての冷静さが、白い世界の異常さに押し潰されていく。
「カミーユ、後方はどうなっている!我々が入ってきた穴は見えるか!」
G教授が思わず声を荒げる。
その声は、恐怖と苛立ちが入り混じったものだった。
「いえ、この白い床と白い壁が延々と続いているわ!」
「馬鹿な……!」
「教授、ここで立ち止まっていても仕方ないわ。進みましょう」
「……うむ」
セシリアの声に、一行は警戒心を解かぬまま、白い廊下を重い足取りで進み始めた。
足音が床にこだましては消えた。
その時だった。
廊下の奥、白い光の向こうから、古代エジプトの装束を思わせる衣服を着た若い女性が姿を現し、迷いのない足取りでこちらへ歩いてきた。
――その瞳は、こちらを射抜くように鋭い。
「何だ、君は!」
G教授は全身の毛が逆立つのを覚えた。
カミーユがとっさに駆け寄り、G教授を庇うように間に割って入った。
「私はネフェル。主がお呼びです。こちらへ」
「おい、待て!何なんだここは!」
ネフェルは前に進みながら答える。
「ここは、もう1つのスフィンクス」
「……何を言っているんだ、君は!」
興奮を抑えきれないG教授に、かぐやが落ち着いた声で言った。
「教授、おそらくここは多次元世界。私たちはポータルの内部に入ったのです」
「ラシードが感じ取ったのは……これか」
G教授は自分を納得させるかのように呟いた。
ネフェルは振り返り、再び同じ言葉を発した。
「こちらへ」
一行は彼女の後を追い、いくつもの角を曲がった。
どれほど歩いただろうか。
やがて、物々しい意匠の扉の前に辿り着いた。
ネフェルが扉に手をかける。
「こちらへ」
扉が開いた瞬間――
白い世界そのものが波打つように揺らぎ、空間がねじれた。
「……なにこれ……気持ち悪い」
セシリアは胃の奥を掴まれたような不快感と激しいめまいに耐えきれず、口元を押さえて膝をついた。
他の仲間たちも動けなくなっているようだったが、気にしている余裕はなかった。
世界が、崩れ落ちるように歪んでいく。
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。G教授や仲間と共に、エジプトフィールドワークに向かう。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
G教授
イギリス国防省「UFO desk」元職員にして、政府のオープンコンタクト推進派メンバーでもある考古学者。セシリアの公私にわたる恩師であり、教授職を退官し、名誉教授となった。個人事務所「Professor G Archaeological Institute」を開設。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。
かぐや
日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドの末裔。前・月の代表で、G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。地球のオープンコンタクトの“先鋒”という、新たな任務の元、セシリアらと共に旅を続ける。
ネフェル
“もう1つのスフィンクス”で謎の主に仕える若き女性従者。古代エジプトの装束を思わせる衣をまとい、射抜くような鋭い視線と静かな威厳を漂わせている。
名前の由来は「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」に登場する「ソルブレイヴス隊」唯一の女性隊員ネフェル・ナギーブから。
編集後記
今回は、夢に出てきた情景をそのまま物語にしました。
実は、ポータルクロニクルを執筆する前から、今回のSeason 4 第5話の原型となる情景は、すでに夢の中で見ており、長く心に残っていたものです。
私の夢は、時に人や物に触れた感覚まで伴い、細部まで鮮明に何年も覚えていることがあります。
しかし、その夢を言語化して物語に落とし込む作業は、意外にも難しいものでした。
そこで、夢を物語へ翻訳するために欠かせなかったのが、AIという“もう一人の共創者”でした。
こうした体験が積み重なり、私の創作コンセプトは“AI共創”となりました。
夢の中では、本編に登場した白い世界はもっと“気味が悪いほど白一色”だったのですが、挿絵にした際に視認性が落ちると思い、陰影を加えて調整しています。
ネフェルという名前は後から考えたものですが、 スフィンクスの内部で女性の従者が現れ「こちらへ」と案内する場面、 そして空間がねじれて気分が悪くなり、その場にしゃがみ込む感覚―― これらはすべて夢に出てきた通りの描写です。
私が夢で見た世界を、これからも物語という形で皆さんと共有できれば幸いです。

