ポータルクロニクル Season 4 第4話「封じられた入口」

「光学迷彩モード起動。これより着陸に入る」
機体の輪郭が揺らぎ、砂漠の陽炎へと溶けていった。

スフィンクスとピラミッドの上空を大きく旋回し、テンプテーションは砂地へと滑り込むように着陸した。砂がふわりと舞い上がり、すぐに風にさらわれて消える。

「ロナ、初めてにしては上出来よ。さすが元モビルスーツ乗りね」
イリスが笑みを浮かべる。

「機体が優秀なだけよ」
ロナも笑いつつ、どこか誇らしげだった。

「そろそろ来る頃かしら」
イリスの言葉どおり、黒塗りの車列が砂埃を上げながら近づいてきた。

「おう、みんな揃ってるな」
先頭の車からG教授が降り、続いてカミーユとセシリア、そして政府関係者が姿を見せた。

「紹介しよう。私の古い友人で、エジプト考古省のラシード氏だ。大きな声では言えんが……彼はコンタクティーだ。だからトントン拍子で事が進んだということだ」

「イリスです。よろしく」
ラシードは穏やかな笑みを浮かべ、イリス、ロナ、かぐやと順に握手を交わした。

「ほう、黒猫ちゃんもいるのですか」
「この子はデシュ。先ほど君に渡した名刺のバステト女神は、デシュをモチーフにしたアイコンなのだよ」
「なるほど、そういうことでしたか」

ロナはスフィンクスを見上げ、思わず息を呑んだ。
「……初めて見たけど、ずいぶん大きいのね」

ラシードが丁寧に答える。
「公式の測定値では、全長約73.5m、全幅約19m、全高約20mとされています」

「そして、皆さんがこれから調査される“スフィンクスのお尻”ですが……19世紀の調査や修復作業の際に開けられた縦穴が存在します。狭い空間や通路が確認されていますが、建造当初から存在した正規の入口ではありません」

「では、私はこれで」
ラシードが車へ戻ろうとする。

「もう帰るのか?立ち会わんのか?」
「私も公務がありますので。それに、どうせ皆さんは一日中ここにおられるのでしょう?」
「まあ、そうだが……」
「終わったら秘書の携帯に連絡を。部下にホテルまで送らせます。イリスさんたちはどうされます?」
「私たちは別に手配していますので」
「承知しました。教授、レポートを楽しみにしていますよ」
「公的機関用と、君が読む用の2種類作成しろということだな」
「さすが教授、話が早い」

2人はニヤリと笑い合い、ラシードは車列とともに去っていった。

G教授は名刺ケースを取り出し、イリスたちに手渡した。
「お前たちの名刺だ。とりあえず50枚ずつ入っている。デシュの分は……まあ、持てんだろうから私が預かっておく。客が来たら“お前をモチーフにしたロゴだ”と言って渡してやるよ」

「よろしく頼む」
デシュが尻尾を揺らす。

ロナは名刺を取り出し、しげしげと眺めた。


「かっこいいじゃない。私にも“地球の身分証明書”ができた気がして、嬉しいわ」

イリスが静かに補足する。
「ロナは一時、本気で地球に移住しようとしていたの。でも国籍要件や居住実態の問題で難しくて……それで私の星へ移住することになったの」

教授はしみじみと頷いた。
「そうか……この間は詳しく聞かなかったが、そういうことだったのか」

「教授、みんな。そろそろ調査に入りましょう」
セシリアの声で、一行はスフィンクスの背後へと歩き出した。

砂の匂い、熱を帯びた風、そして巨大な石像の影がゆっくりと彼らを包み込む。

「さっきラシードさんが“通路”と言っていたけれど……実際には修復・補強された亀裂や小さな開口部の類ですよね?」
セシリアがG教授に確認する。

「考古学的にはな」

そのとき、かぐやの右手のサイコフレームブレスレットが鈍い光を放った。
「セシリアさん……サイコフレームが、何かを示していますわ」

セシリアも自分の胸元にあるサイコフレームネックレスに手を当てる。
淡い光が、まるでどこかへ誘うように脈動していた。

「……どうやら、本当に何かあるみたいね」

スフィンクスの影の奥、封じられた入口へと、彼女らは静かに歩みを進めた。

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。プロフェッサーGや仲間と共に、エジプトフィールドワークに向かう。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

ロナ
人間の食べ物を摂取し続けたため、人間に変化した元妖精。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。イリスたちの新たな移動手段となったシャトル「テンプテーション」の艦長となる。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。

デシュ
イリスがいる世界の保護猫♀で、「赤い彗星の再来」と呼ばれている。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」のアイコン研究員。イリスと同じ高性能マイクロチップがインプラントされており、地球人を始め、異界の者との意思疎通が可能。
名前は読者さん命名。由来はフランス語で「堕天使」を意味するアンジュ・デシュ(Ange déchu)から。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

G教授
イギリス国防省「UFO desk」元職員にして、政府のオープンコンタクト推進派メンバーでもある考古学者。セシリアの公私にわたる恩師であり、教授職を退官し、名誉教授となった。個人事務所「Professor G Archaeological Institute」を開設。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。

かぐや
日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドの末裔。前・月の代表で、G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。地球のオープンコンタクトの“先鋒”という、新たな任務の元、セシリアらと共に旅を続ける。

ラシード
エジプト考古省に所属する実務派の官僚であり、同時に“コンタクティー”としての顔を持つ人物。G教授とは長年の友人関係にあり、互いに深く信頼し合っている。公務員としての立場を守りつつも、スフィンクス調査の特別許可を迅速に手配するなど、要所で便宜を図る。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するMS部隊「マグアナック隊」隊長ラシード・クラマから。

編集後記

セシリアら地球組も合流し、今回は久々にフルメンバーが揃いました。
そして、G教授がメンバーに手渡した名刺ですが、その色彩が持つ国際的な印象は、日本の常識とは大きく異なります。
日本における「黒×ゴールド=派手・夜の街・裏社会」というステレオタイプは、実はアジア圏の一部に特有の文化的連想にすぎません。

✦ ヨーロッパ(特にイギリス・フランス)
ヨーロッパでは「黒地にゴールド」は、 歴史あるブティックホテル、サビル・ロウの紳士服店、伝統的な職人ギルド、あるいはニッチな専門職の私設研究所などが用いる“クラシック・ラグジュアリー”の象徴です。
特に考古学や歴史を扱う人物がこの配色を用いると、 「地下の墳墓」「隠された遺物」「秘匿された知」 といったイメージを自然に喚起し、知的でミステリアスな演出として極めて相性が良いのです。

✦ 中東(UAE・サウジアラビアなど)
中東では、ゴールドは「至高の敬意」を示し、黒は「尊厳と権威」を象徴します。
王族、政府高官、あるいは彼らと対等に交渉する超一流のコンサルタントや学者の名刺には、黒地に金箔(ゴールド・フォイル)がごく一般的に使われ、最高級のステータスとして認識されています。
日本的な「水商売的なネガティブさ」は、ここには一切存在しません。

✦ ヨーロッパ・中東における名刺交換の文化と意義
欧州・中東には、日本のような「会ったらまず全員と儀式的に名刺を配る」という文化はありません。
彼らにとって名刺は単なる連絡先カードではなく、
「この人物とは今後も繋がる価値がある」
と互いに認めたときにだけ交わされる、いわば “通行証” です。

✦ ヨーロッパ(イギリス)の場合
初対面では、まず握手と「会話の質」がすべてです。
知的な対話を重ね、別れ際や議論が最高潮に達した瞬間に、
「今後もこの議論を続けたい。あなたと仕事(あるいは研究)がしたい」
と感じたとき、初めて名刺が差し出されます。
最初から配ると、
「誰にでも営業している軽い男」
と見なされてしまうのです。

✦ 中東の場合
中東では「リレーション(信頼関係)」が法律よりも重い意味を持ちます。
名刺を渡す行為は、
「あなたを自分の内側のサークルに迎え入れる」
という強い信頼の表明です。
そのため、テーブルに滑らせるような渡し方は厳禁で、 相手の目をまっすぐ見つめ、敬意を込めて手渡されます。

✦ ヨーロッパの個人事務所(一流専門職)の名刺に書かれるもの
日本のように情報を詰め込む名刺は、欧州の一流専門職や教授クラスの世界では
「情報過多で美しくない=品性がない」
と見なされます。
彼らの名刺の原則は、圧倒的なミニマリズムと余白

✦ 実際に書かれる要素(例:G教授クラス)
ロゴマーク(意匠)
機関名・事務所名(例:Professor G Archaeological Institute)
名前と最高学位・称号(例:Professor G, Ph.D.)
たった1つのダイレクトな連絡先(直通メール or URL)
住所は都市名+ストリート名のみ(例:London, UK)

✦ 日本の名刺にあって、彼らの名刺に「ない」もの
FAX番号
大量のSNS
QRコード
→ これらは “品格を落とすノイズ” として排除されます。
特にQRコードは、テック系なら許容されますが、 歴史・アカデミア・文化系の個人事務所では「安っぽいデジタル臭」を出すため避けられます。

✦ 携帯番号の扱い
携帯番号は名刺に印刷されません。 本当に心を許した相手にだけ、名刺を渡す瞬間に
「これが私のパーソナルな番号だ」
と言って、裏面に万年筆で手書きします。
これが、ヨーロッパ上流階級や一流専門職における最高峰の親愛の示し方です。

以上、黒×ゴールドは、世界では
“知性・敬意・権威”を象徴する最上級の配色
として扱われています。
これから開業される方、名刺デザインを見直したい方は、上記を参考にされてはいかがでしょうか。