ポータルクロニクル Season 4 第3話「テンプテーション発進」

「イリス様、ちょうどいいタイミングで“テンプテーション”が完成しましたぞ!」技術責任者が興奮気味に部屋へ飛び込んできた。ちょうどその頃、ロナも目を覚まし、寝ぼけ眼のまま顔を出す。

「どうしたの、何かあったの?」

ロナに軽く視線を合わせて、イリスが話し始めた。
「私たち、母船で移動してるでしょ。でも実際にフィールドワークをしているのはセシリアたちを含めても10人程度。この母船は巨大すぎて着陸場所を選ぶだけでも一苦労なのよ。日本の富士の樹海に降りた時、痛感したわ。だから小型機が欲しかったんだけど……一から造る時間はない。そこで月側に頼んで機体を提供してもらって、うちのメカニックに改修をお願いしてたの」

かぐやが嬉しそうに微笑む。
「お役に立ててよかったです。この母船、確かにちょっと大きすぎますものね」

「そうそう。母船は宇宙空間で待機しててもらうわ。このシャトルは単独で大気圏へ出入りができるし、艦長と操縦はロナに任せるわ」

「了解。任せて」

技術責任者が促す。
「では皆さん、ドックへどうぞ!」

ドックに入ると、グレーの機体が静かに佇んでいた。
「機体は光学迷彩で姿を隠せますし、万が一見られても地球で使われていたスペースシャトルに似ていますから、“新型の実験機”と思われるでしょう。武装は船体内部に収納された可動式連装ビーム砲とファンネルミサイル。コクピットは1名ですが、乗員は20名ほどなら余裕で座れます。核エンジンを採用していますから、燃料の心配はまずありません」

イリスが満足げに頷く。
「じゃあみんな、早速乗り込むわよ!」

テンプテーションは母船から滑るように発進した。
眼下には巨大なスフィンクスが広がり、母船は静かに宇宙へと上昇して行った。

「近くに着陸して、光学迷彩で隠しておきましょう」
ロナは操縦桿を倒し、機体はゆっくりと着陸態勢へ入った。

登場キャラクター紹介

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

ロナ
人間の食べ物を摂取し続けたため、人間に変化した元妖精。G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。イリスたちの新たな移動手段となったシャトル「テンプテーション」の艦長となる。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。

かぐや
日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドの末裔。前・月の代表で、G教授の個人事務所「Professor G Archaeological Institute」研究員。地球のオープンコンタクトの“先鋒”という、新たな任務の元、セシリアらと共に旅を続ける。

編集後記

今回も宇宙組の移動を中心に描いた回であり、主人公セシリアは引き続き不在となりました。そして、イリスたちの新たな移動手段となるシャトル「テンプテーション」が初登場しました。

イリスのセリフにもある通り、巨大すぎる母船は着陸可能な地点が限られており、実際にフィールドワークを行っているのはセシリアたちを含めても10名程度です。にもかかわらず、毎回あの母船で移動するのは過剰ではないか――執筆しながら、私自身もそう感じていました。この問題を解消するために生まれたのが、今回の「テンプテーション」です。

元ネタは『機動戦士Zガンダム』に登場する往還シャトル「テンプテーション」です。原作では貨物室の天井が開閉し、モビルスーツを2機並べて収容できる構造になっていますが、本作では単なる移動手段としての役割に絞っているため、そこまでのスペースは不要と判断しました。

また、原作では隕石やデブリ除去用として可動式連装機関砲が搭載されていますが、本作では“月側ならではの独自兵器”という設定を活かし、アナハイム・エレクトロニクスの技術を彷彿とさせるビーム砲とファンネルミサイルを装備させています。