ポータルクロニクル Season 3 第10話「オープンコンタクト」

「セシリア、冷凍庫にたこ焼きとピザが入っているだろう?皆で手分けして温めてくれ」

「わかったわ。……というかこれ、インカ帝国の石積みみたいに隙間なく詰め込まれてるんだけど」

「三十人前ずつある」

「さすがに買いすぎよ」

「皆、若いから食べるだろう?」

セシリアは肩をすくめながらキッチンへ向かった。

アーサーは椅子に深く腰を下ろし、かぐやに向き直る。

「さて、かぐやさん。ここでの話はオフレコだ。記録にも残さないし、他言もしない。安心して話してくれ。もちろん、君にも守秘義務があるだろう。言えないことは言わなくていい」

その横で、G教授が静かに口を開いた。

「もちろん私もそうする。約束しよう」

かぐやはゆっくりと頷く。

「ありがとうございます。……お父様を信頼して、知っていることはすべてお話しします」

少し間を置き、かぐやはアーサーではなく、G教授へ視線を向けた。

「……教授。教授はイギリス政府の“オープンコンタクト推進派”のメンバーですよね?だから予算もある程度、自由に使える」

G教授の顔が思わず引きつる。

「月も、情報は掴んでます。NASA主導のアルテミス計画は表向き。真の狙いは、私たち月の住人との接触。アメリカの背後に控えているのはイギリス――そういう構図ですよね?宇宙事業に限らず、すべて」

「……参ったな。なんでもお見通しというわけか」

アーサーは表情を引き締め、核心に踏み込む。

「では単刀直入に聞こう。オープンコンタクトの目的は何だ?地球を侵略するつもりか?」

「違います!他の種族には、そうした野望を抱く者もいるかもしれません。しかし、私たちにとって地球は“先祖の星”です。絶対にそんなことしません。目的は、地球の次元上昇。その先鋒として、私が地球に着任したのです」

「ふむ……。我々と姿形が変わらんのも、地球に馴染むためか?」

「私は特に、日本人のDNAを色濃く受け継いでいます。だから見た目はほぼ同じです。馴染むために整形したとか、そういうわけではありません。ハイブリッドといっても、アブダクションした種族によって容姿は全く異なります。目がアーモンドアイのように釣り上がっている者、耳が尖っている者もいます」

アーサーは少し考え込み、慎重に尋ねた。

「センシティブな事だから、答えたくなければ答えなくて良いのだが……なぜ君は“ほぼ日本人”なのだ?」

「今から千年以上前、月の住人が日本に降り立ち、数十人をアブダクションしました。彼らは子孫を残すため、交配実験を繰り返し、ハイブリッドが誕生しました。その末裔が私です」

アーサーは深く息を吐いた。

「そうか……すまない。よく話してくれた」

「ところで、右腕に着けているその金属……サイコフレームと言ったか。それは何だ?」

「精神感応システムの機能そのものを組み込んだ金属です。所有者の脳波を増幅・処理し、時に想定を超える超常現象を引き起こします」

「ということは、念じるだけでフレアや機関砲をかわしながらミサイルを命中させることも可能になるということだな。軍に渡ったら大変なことになるな」

「ファンネルミサイルのことですか?そうです。だから私たちの世界では戦争が絶えませんでした。そしてその気になれば、この世界ごと消滅させることもできます。それでイリスさんの星と共同管理して、歯止めをかけることにしたのです」

「パパ、できたわ」

セシリアが皿を運んでくる。

「よし、皆で食べよう。……食べながらで構わん、かぐやさん。君は日本人だからたこ焼きが好きだろう?以前、日本で合同訓練をした時に食べてすっかりハマってしまってな。たこ焼きを食べて成長しようではないか。日本にそんなことわざがなかったか?」

「いえ、聞いたことがありません」

かぐやは思わず吹き出した。

アーサーが興味深そうに尋ねる。

「月にはどんな食べ物があるのだ?インテリベンチャーの連中が、月移住だ火星移住だと言っているが、食糧はどうするのか、いつも疑問でな」

「戦争で食糧製造エリアが壊滅し、先人たちは地下で人工的に作物や培養肉を作り始めました。早い話がフェイク野菜とフェイク肉です。それでこの度、イリスさんの星から農業や畜産技術を提供していただけることになりました」

「食は大事だ。我々軍人も、食が唯一のモチベーションだ」

「……こんなことを言ってはなんですが、地球に来られて本当に良かったです」

ロナが笑いながら続ける。

「私なんて、地球の食事が美味しすぎて、あっという間にツーサイズ大きくなったわ」

アーサーはさらに尋ねる。

「ところで、君が降り立ったストーンヘンジ。あれは大昔の人が造った天文カレンダーだろう?」

「表向きはそうです。建造したのも地球人です。でも、技術を授けたのは地球外知的生命体。中心にブルーストーンが配置されているのがポイントです。あの石は宇宙と地球をつなぐ“高周波の共鳴体”。宇宙波を受信・発信する中継局であり、転用すれば星間ポータルになります。
 アメリカは小型の星間ポータル装置を開発したという話です。ですが、それは意味不明で邪悪な種族を呼び寄せてしまう可能性が極めて高いです」

「アメリカが!?そんな話は聞いたことがないぞ。本当なのか?」

「はい。実際、3メートルの巨人型生命体とか、得体の知れない種族が街中に現れたと聞きました」

「……つまり、オープンコンタクトとは、どことどうつながって、どういう方向に進むのかが問題というわけだな」

「おっしゃる通りです。太古から地球外生命体は来ています。しかし、情報開示され、堂々と姿を現すのはこれからです。お父様や教授、そしてセシリアさんがオープンコンタクト第1号と言っていいかもしれませんね」

G教授がかぐやを指さしながら言う。

「かぐや。君はまだ若い。私から忠告しておく。君の美貌に惹かれて言い寄ってくる“変なおじさん”に引っかかるんじゃないぞ。……変なおじさんとは、断じて私のことではない」

イリスとロナがお互いに耳打ちする。

(変なおじさんって、ヘンリー先生のことだよね?)

部屋は笑い声に包まれた。

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。大学院を卒業し、晴れてイチ学者として独り立ちすることとなった。父や仲間と共に、つかの間の休暇を楽しむ。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアをアブダクションしてインプラントを施した。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

ロナ
妖精だったが、人間の食べ物を摂取し続けたため、人間に変化した。そのため、母星から追放され、イリスの星へ移住することとなった。しかし移住せず、引き続きセシリアらと旅を続ける。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。セシリアが帰郷後も引き続き、共に旅を続ける。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

かぐや
日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドの末裔。月の代表を辞任し、地球のオープンコンタクトの“先鋒”という、新たな任に就く。セシリアらとストーンヘンジで再会。共に旅を続ける仲間となる。

アーサー・フェアチャイルド
セシリアの父親で父子家庭。イギリス海兵隊大佐。イリスやロナといった異界の者たちの存在に驚きつつも、温かく見守る。
名前の由来は「ガンダムSEED FREEDOM」でミレニアムの副長を務めたアーサー・トラインから。

G教授
考古学者で、セシリアの公私にわたる恩師。イギリス国防省「UFO desk」出身で、現在はイギリス政府のオープンコンタクト推進派メンバーであることが明かされる。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。

編集後記

今号では、世界で最も有名な巨石遺構「ストーンヘンジ」の実像に迫りました。

オカルトの世界では、ストーンヘンジを「超古代文明の遺産」や「異星人の足跡」とする言説が絶えませんが、これらは考古学的な検証によって明確に否定されています。発掘調査や放射性炭素年代測定が描き出したのは、紀元前3000年頃から約1500年もの歳月をかけて「宇宙の理」を形にしようとした、先史人類の飽くなき情熱でした。

■ 本特集の要点

  • 先史の英知: 最大50トンの巨石を配し、夏至の日の出を正確に射抜く「天文神殿」としての構造。
  • 巨大なネットワーク: 近隣の「スーパー・ヘンジ」を含め、一帯が欧州最大級の祭儀複合体であった可能性。
  • 日本との共鳴: 大湯環状列石など、日本の縄文遺構とも通ずる人類普遍の「天体への眼差し」。

超自然的な謎も魅力的ですが、限られた技術の中で「宇宙の理」を形にしようとした先史人類の営みには、現代の私たちも学ぶべき知性があるように感じます。日本の大湯環状列石との比較など、時代や場所を超えた「祈りの形」の共通性に思いを馳せていただければ幸いです。