G教授がアーサーに提案する。
「大佐、ストーンヘンジから車で30分ほどの場所に、20時台までディナーをやっているレストランがありますぞ」
「そうですか。ならばそこへ行きましょう。今から向かっても3時間はゆっくり食事できますな。皆もそれでいいだろう?」
一同が頷き、車を走らせた。
レストランに入り、注文した料理が次々と運ばれてくる。
食事を楽しんでいると、セシリアがふと思い出したように口を開いた。
「パパ、日本の自衛隊って知ってる?」
「ああ。ジャパン・アーミーだろう?何度か合同訓練をしたことがある。彼らの練度は目を見張るものがある。……それがどうかしたのか?」
「日本でカフェに入ったら、両親が自衛隊員って子が経営していたの。その子、自分も自衛隊に行くか悩んだんだけど、料理が好きで得意だからって、調理師免許というナショナル・クオリフィケーションを取って開店したそうなのよ。パパの話をしたら、すごく喜んでたわ」
「ほう、日本は国家資格なのか。イギリスは民間認定資格と食品衛生証明書だが……。日本に訓練で行く機会があっても自由行動は難しいが、もし可能なら部下を連れて行ってみるか」
「乃愛さんっていうの。あとでメールしておくわ」
「よろしく伝えてくれ。ご両親にも」
「ええ、きっと喜ぶわ」
アーサーは、娘の幼い頃を思い返した。
「セシリア……お前、幼少期は友達がほとんどおらず、一人で図書館に通っていたな。軍務で忙しく、一緒にいてやれなかった私も悪かったが……。こうして色んな友達ができて、本当に良かった」
その目元は、わずかに緩んでいた。
そしてアーサーは話題を変えるように尋ねた。
「ところで、かぐやとは何者なんだ?かぐや姫の“かぐや”か?」
「ええ、そんな感じかな……。地球外知的生命体と日本人とのハイブリッドよ」
「なんだと。軍でも噂話として聞いたことはあるが、本当なのか?」
「本当よ」
「その子とも友達なのか……。まあ、ロナさんなんか初めは羽が生えていたからな。今さら驚かんよ」
ロナが苦笑する。
セシリアが続けた。
「日本で会った時は“月の代表”の装束を着ていたから、普段の姿がどうなのか、私も興味があるわ」
談笑しているうちに、外はすっかり日没を迎えていた。
G教授が時計を見て言う。
「大佐、そろそろ行きますか」
「そうか、もうそんな時間か。行きますか」
会計を済ませ、一行は再び車に分乗してストーンヘンジへ向かった。
現地に到着すると、アーサーが呟いた。
「さすがにこの時間はゲートが閉まっているか」
ストーンヘンジはビジターセンターから約2km先に遺跡がある。
通常はゲートを通って移動する必要があるが、既に閉門時間を過ぎており、係員の姿は見当たらなかった。
イリスが静かに言う。
「大丈夫よ、ここで」
そしてセシリアに向き直る。
「サイコフレームを握って、語りかけてみて」
「やってみるわ」
数分後――。
ストーンヘンジ中央に、巨大な光の柱が降り立った。
「なんだ!? 衛星兵器か……!」
アーサーが思わず身構える。 しかし光の中に、人影がゆっくりと現れ、こちらへ歩いてくる。
セシリアが叫んだ。
「かぐや!?」
「皆さん、お久しぶりです。はじめましての方もおられるようですが」
セシリアは驚きの声を上げた。
「かぐや!久しぶり!月の衣装とは全然違うから驚いたわ。どこからどう見ても日本人よ」
カミーユも頷く。
「違和感ないわ。あなたみたいな子、東京にいっぱいいるわよ」
「似合いますか?皆さんと同じような服を選んでみました」
セシリアはかぐやの右腕に目を留めた。
「それ、サイコフレーム?」
「はい。加工してブレスレットにしました。セシリアさんのサイコフレームと同期していますので、今度は出雲大社まで行かなくても即座に通じ合えます。だから今もこうして…」
「そうだったのね!」
かぐやが続ける。
「イリスさんから聞いたかもしれませんが、私も旅のお供に加えていただきたいです」
「もちろんよ!ということで教授、旅の費用よろしく」
「……まったく、君たちは。旅費がまた増えるな……。まあいい、なんとかしてやる」
G教授は頭を掻きながら肩をすくめた。
アーサーが一歩前に出た。
「私がセシリアの父だ」
「はじめまして。そしてそちらが教授先生ですね」
「イリスさんとセシリアから大体の話は聞いた。君には聞きたいことが山ほどある。個人的にも、軍人としてもだ。……ここでは誰が聞いているかわからん。よかったらうちに来ないか。デリバリーが大量に残っている。君は半分日本人なのだろう?地球の食べ物は大丈夫か?」
「はい。……お父様、私の姿を見ても驚かないのですか?」
「さすがにエイリアンやプレデターが出てきたら驚くが、今となっては多少のことでは驚かんさ」
G教授が指示を出す。
「かぐやとカミーユ、君たちは大佐の車に乗れ。カミーユ、かぐやを護衛してやれ」
「了解よ」
こうして一行は車に分乗し、セシリア宅へと向かった。
登場キャラクター紹介
セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。大学院を卒業し、晴れてイチ学者として独り立ちすることとなった。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。
イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアをアブダクションしてインプラントを施した。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。
ロナ
妖精だったが、人間の食べ物を摂取し続けたため、人間に変化した。そのため、母星から追放され、イリスの星へ移住することとなったが、しかし移住せず、引き続きセシリアらと旅を続ける。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。
カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。セシリアが帰郷後も引き続き、共に旅を続ける。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。
かぐや
前・月の代表。日本人と地球外知的生命体とのハイブリッドの末裔であり、20代前半の日本人女性を思わせる姿をしている。月の代表を辞任し、地球のオープンコンタクトの“先鋒”という、新たな任に就く。セシリアらとストーンヘンジで再会。共に旅を続ける仲間となる。
アーサー・フェアチャイルド
セシリアの父親で父子家庭。イギリス海兵隊大佐。イリスやロナといった異界の者たちの存在に驚きつつも、温かく見守る。
名前の由来は「ガンダムSEED FREEDOM」でミレニアムの副長を務めたアーサー・トラインから。
G教授
考古学者で、セシリアの公私にわたる恩師。2009年に閉鎖されたイギリス国防省「UFO desk」出身の過去を持ち、広い情報網と人脈を持つ。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。
編集後記
今回のエピソードでは、アーサーのセリフにもあるように、イングランドの「調理師資格」の仕組みを少し取り上げました。日本では調理師免許が国家資格ですが、イングランドでは事情が異なり、City & Guilds や NVQ(National Vocational Qualification)といった民間認定資格が一般的です。
これらはレベル1(基礎)からレベル4(上級)まで段階があり、専門学校での学習や実務経験を通じて取得できます。飲食業界では十分に評価される資格で、就職の際のアピールにもなります。
また、食品衛生に関しては「Level 2 Food Hygiene Certificate」が事実上の必須資格で、数時間のオンライン/対面講習で取得可能です。飲食店で働く際にはほぼ必ず求められるため、実務上はこれが“最低限のライン”になります。
キャリアパスとしては、レストランやホテルでアプレンティス(見習い)として働きながら経験を積むのが一般的で、より本格的にプロを目指す場合はLe Cordon Bleuなどの料理学校でディプロマを取得すると大きな強みになります。
つまり、イングランドでは国家試験は不要でも、民間資格+実務経験で十分にシェフとして活躍できるという仕組みです。
ストーンヘンジについても、作中で触れたように、現在はビジターセンターを経由しないと遺跡にアクセスできない運用になっています。
ビジターセンターは遺跡から約2km離れており、チケット販売、展示、オーディオガイドの貸し出しなどを行う拠点です。ここから無料シャトルバス(または徒歩30分)で遺跡へ向かい、外周通路を巡る形になります。
かつては直接遺跡に近づけるルートもありましたが、遺跡保護の観点から現在は一本化されました。
例外として、夏至・冬至などの特別な日には、サークル内への立ち入りが無料で解放されることがありますが、それでも混雑管理のため、ビジターセンター経由が推奨されています。
今回のエピソードは、物語の中にさりげなく“現実の文化・制度”を織り交ぜる回となりました。
ポータルクロニクルの世界はフィクションでありながら、こうした現実のディテールが入ることで、キャラクターたちの旅がより立体的に感じられるようになれば嬉しく思います。

