ポータルクロニクル Season 3 第8話「再会」

イリスの母船では、ロナへの事情聴取と移住手続きが終わったところだった。

罪には問われなかったものの、人間へと変化したことで、ロナは自分の星から永久追放。軍は強制除隊となり、守秘義務の厳守が絶対条件として課された。

ロナの星の弁護士が言う。
「お父上とは、もう会われないのですか?」
「ええ。もう会うことはないでしょう。どうかよろしくお伝えください」

続いて、イリスの星の法執行機関の職員が告げた。

「ようこそ我が星へ。イリス様とご学友のあなたなら、大歓迎だと議長もおっしゃっていました」
「ありがとうございます。本来ならすぐにでもご挨拶に伺うべきなのでしょうが……私はこのまま旅を続けます。くれぐれもよろしくお伝えください」
「承知しました。では、我々はこれにて」

それぞれの星の弁護士と職員は、UFOで母星へと帰っていった。

「イリス、何から何まで本当にありがとう」
「困った時はお互い様よ。ロナの第2章の始まりね。一足先にセシリアのパパに会いに行きましょう」
「ええ。私も久しぶりに会うから楽しみだわ」

イリスの母船はセシリア宅の裏山に着陸し、家へと向かった。

「おお!久しぶりだな!G教授から君たちが来ると聞いて、デリバリーを大量発注しておいたぞ」
ロナが目を丸くする。
「こんなにたくさん?」
「そうだ。20人前ある。これだけあれば十分だろう。なっ、デシュ大佐」
「セシリア達は遅くなるそうだな。彼女たちの分は残して、冷めないうちに先に食べよう」

イリスとロナは食事をしながら、これまでの経緯を話した。

「そうだったのか……ロナさん、永久追放に強制除隊か」
「はい大佐。そこは仕方ありません。イリスの星とは友好関係にありますし、イリスの父上は星の代表。本当に助かりました」
「そうなのか!」
「ええ。最高評議会議長という役職よ」

ロナが続ける。
「イリスの星には同盟星が共同設立したアカデミーがあり、イリスとは同じクラスでした。その後、イリスは科学者の道へ。私は士官学校へ進み、モビルスーツ乗りになりました」
「なるほどな……」

「ところで、人間に変化したということは、我々地球人とルーツが同じ可能性があると?」
「そうです、大佐。私も地球人も、ルーツが同じである可能性があります。そこからある種族は妖精に分岐したのではないかということです」
「興味深い話だな。ルーツが同じ者同士、これからも仲良くしてくれると嬉しい。もちろん軍には黙っておく。G教授も口が堅い男だ。心配するな」
「ありがとうございます、大佐。光栄です」

「で、これからどうする?このまますぐにイリスの星に移住するわけではなく、セシリアに付き合って旅を続けるのだろう?」
「はい大佐。地球でこんなにエキサイティングな体験ができるとは思いませんでした。さらに経験を積み、成長したいと思います」
「相変わらず生真面目だな、君は」

一同が談笑している頃、G教授、セシリア、カミーユが帰宅した。

「パパ!」
セシリアは父アーサーに飛びついた。

「セシリア、なんかこう……たくましくなったな」
「それは日本の食べ物が美味しいからよ」
「そ、そうなのか……」

アーサーはカミーユに視線を移した。
「後ろにいるのがカミーユさんだな。G教授から話は聞いている」

「はい大佐。これまで民間軍事会社で傭兵としてヨーロッパ戦線で戦っておりました。戦闘が終わり、帰国したタイミングで会社からG教授を紹介されました。私は日本とフランスのハーフで、国籍は日本です。それで日本での案内とボディガードを務めることとなりました。一度、大佐に直接ご挨拶をと思っておりました」

「セシリアを守ってくれて、父親として礼を言う。この通りだ」
アーサーは深々と頭を下げた。

「大佐、頭をお上げください」
カミーユも同じく深く頭を下げた。

――そして迎えた卒業式の日。

「パパ、教授、そしてみんな。ハードな学生生活だったけど、今日を迎えられたのはみんなのおかげです。あらためて感謝します」

G教授が口を開く。
「セシリア、勘違いするなよ。問題なのは卒業した後だ。これからもっとハードな人生が待ってるぞ。そう心してかかれ。だが、その分、楽しいことも増える。お楽しみはこれからだ」

「さすがですな教授。私が言いたいことを全部言ってくれた」
アーサーは思わず笑みをこぼした。

「ところでだ、セシリア。お前、誰かと卒業旅行とか行くのか?お前の卒業式に合わせ、軍から7日間の休暇をもらった。これからまた皆とフィールドワークに行くんだろう?私も軍の任務がある。次はいつ会えるかわからんし、近場でもいいから皆とゆっくりしたいのだが」

「それなんだけど……」
セシリアはG教授に視線を向けた。

「教授、実は昨日あたりから、サイコフレームを通して“ストーンヘンジへ来るように”というテレパシーを受け取ってまして……」

「ほう」

イリスが口を挟む。
「それはかぐやよ」

「かぐや!また会えるのかな」

アーサーが怪訝な表情を浮かべる。
「誰だそれは?お前がネットでよく見ていたセーラームーンってやつか?」
「それはアニメよ」

イリスがセシリアに視線を向けつつ、話を続ける。

「出雲大社経由でかぐやと会ったでしょ。あの後、父に月の現状と窮状を話したの。そうしたら、私の星と月との代表団同士が会談したそうなのよ。

私の星からは“無償で技術提供し、月を同盟星として迎え入れる”という大きな支援を提示したわ。その代わりに父が出した条件は──

・サイコフレームの共同管理
・かぐやを含む現指導者層の即時辞任
・体制刷新と法整備
・かぐやは地球のオープンコンタクトの先鋒として地球へ

というものだったの。
つまり、私たちと一緒に旅ができるよう取り計らってくれたということよ。後任も決まって、かぐやも精神的に余裕が出てきたのではないかしら」

「嬉しい!」
セシリアをはじめ、皆の顔が一気に明るくなった。

「セシリアから話は聞いていたが、私も直接会ってみたいものだな。ストーンヘンジなら車で2時間程度だ。大佐の車と私の車で分乗して行くか。目立たない日没後のほうがいいな。それまでセシリアの卒業祝いも兼ねて、皆でどこかで軽く食事でもするか」

イリスも同意する。
「そうしましょう!ストーンヘンジは星間ポータルと言われている場所よ。だからかぐやはそこを指定したのでしょう。私もストーンヘンジを直接見るのは初めてだから、楽しみだわ」

登場キャラクター紹介

セシリア・フェアチャイルド
物語の軸を担う存在。大学院の卒業式のため、母国イングランドに帰郷することとなった。
名前の由来は「機動戦士ガンダム」でギレン・ザビの第1秘書を務める才色兼備の美女セシリアと、「ガンダムF91」のセシリー・フェアチャイルドから。

イリス
太古に地球を離れた人類の末裔で科学者。セシリアをアブダクションしてインプラントを施した。常にセシリアに寄り添う良き理解者。父親は母星の代表職である最高評議会議長。
名前の由来はピエール=ナルシス・ゲラン作『モルフェウスとイーリス』から。

ロナ
父親との確執から家出していたところ、イリスによって呼び寄せられた。妖精だったが、人間の食べ物を摂取し続けた結果、人間に変化。自分の星には戻れなくなったことから、イリスの星に移住することとなった。
名前の由来は「ガンダムF91」に登場したセシリー・フェアチャイルドの本名であるベラ・ロナから。嫌いなものはアニメ同様、ラフレシア。

カミーユ
フランスと日本のハーフ女性。G教授の紹介で、セシリアの日本フィールドワークでの運転手兼用心棒的な役割を担う。元傭兵で、その類稀なる戦闘能力から「最高のニュータイプ」と呼ばれている。セシリアが帰郷後も引き続き、共に旅を続ける。
名前の由来は「Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンから。

アーサー・フェアチャイルド
セシリアの父親で父子家庭。イギリス海兵隊大佐。イリスやロナといった異界の者たちの存在に驚きつつも、温かく見守る。
名前の由来は「ガンダムSEED FREEDOM」でミレニアムの副長を務めたアーサー・トラインから。

G教授
考古学者で、セシリアの公私にわたる恩師。2009年に閉鎖されたイギリス国防省「UFO desk」出身の過去を持ち、広い情報網と人脈を持つ。
名前の由来は「ガンダムW」に登場するプロフェッサーG。

編集後記

第8話では、ロナとかぐやという、まったく異なる立場の二人が、それぞれ“冷酷に見える決断”を受け入れる場面が描かれました。

ロナは、人間へと変化したことで故郷から永久追放され、軍も強制除隊。表面的には厳しい処分ですが、妖精という枠に縛られず、新しい人生を歩むための解放でもあります。

一方で、かぐやもまた、無償の技術提供という大きな支援を受ける条件として、自身を含む月の現指導者層の即時辞任と体制刷新を求められるという、大きな変化の渦に巻き込まれました。月の古い体制を一度リセットし、かぐやを“地球のオープンコンタクトの先鋒”という新たな役割へ送り出す──それは、かぐやがセシリアたちと再び旅を共にできるようにするための道を、イリスの父が開いてくれたという、「強引だが深い愛」が隠れています。

ロナは“帰れない星”を背負いながら前へ進み、かぐやは“縛られていた星”から解き放たれて新たな任務へ向かう。

どちらも、「自由に生きてほしい」という愛によって、次の章へ押し出された存在です。

再会は終わりではなく、それぞれの“新しい始まり”の合図。

そんな想いを込めて、第8話を書きました。

ちなみに、G教授の「お楽しみはこれからだ」は、故・江崎英治ハヤブサ選手の決めゼリフでした。2026年3月3日でちょうど没後10年。
1995年5月5日に川崎球場で行われた「大仁田厚 vs ハヤブサ」のノーロープ有刺鉄線金網電流爆破時限爆弾デスマッチを生観戦した私にとっても忘れられない選手であり、追悼の意味を込めて、G教授のセリフとして使わせていただきました。